第112話 すべてが終わった(みずほ編)

*勝と別れる前


「みずほさん、今日はありがとう。あと、ご・・・・・・」


 ごめんといわれたら、余計にむなしくなるだけ。みずほは慌てて、勝の言葉を遮った。


「私のわがままに付き合ってもらっただけ。勝君は罪悪感をおぼえなくてもいいよ」


「みずほさん・・・・・・」


 付き合ってくれた男性に対して、満面の笑みを向ける。


「私の体はどうだった? 素直な感想を聞きたいな」 


「すっごく柔らかくて、すべすべとしていたよ」


「もう一度触ってみたい?」


「それは・・・・・・」


「今日だけの特別大サービスだよ。明日からは、どんなことがあっても触れないようにしてね」


 嘘100パーセントの言葉をぶつけると、勝は小さく頷いた。


「わかった・・・・・・」


 バスケットボール部のエースとは異なり、誠実な心を持っている。わずか一日だとしても、デートできて本当に良かった。


「勝君、さようなら」


「みずほさん、さようなら・・・・・・」


 二人は少しずつ遠ざかっていく。永久の別れになることに、大粒の涙を流していた。


*自宅に戻ってきた


 勝とのデートを終えて、自宅に戻ってきた。


「ただいま・・・・・・」


 4歳上の姉が、家に帰ってきたばかりの妹を出迎える。身長は150センチと小柄で、みずほとは頭一つ分の差がある。


 身長差があるからか、姉、妹をよく間違えられる。姉は妹扱いされるたびに、「身長だけで判断しないで」と口癖のようにいっていた。


「おかえりなさい。大好きな人とのデートはどうだったの?」


「まずまずといったところだよ・・・・・・」


 特段にいい雰囲気ではなかったけど、悪くはなかった。刺激は少なくとも、平穏な時間を過ごせた。


「そっか。次もうまくいくといいね」

 

「次は、もう、ないよ・・・・・・」


「それって・・・・・・」


「大好きな人には、相性のいい女の子がいるの。どんなに手を尽くしても、その子を超えるのは難しい」

 

 人間には相性がある。人間性をどんなに磨いたとしても、決して乗り越えることはできない壁。


「そうなんだ・・・・・・」


「一度きりだとしても、本命の男の子といられた。私にとっては、一生の宝物だよ」


「みずほ・・・・・・」


「いろいろと考え事をしたいから、自分の部屋に戻っていい」


 姉は小さく首を振った。それを確認したのち、自分の部屋に向かって歩き出す。次に切り替えようとする心、同じ人を好きでありたい心が激しいバトルを繰り広げていた。

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