第90話 植物状態(若葉編)

*言葉などは発せないので、若葉の心の声を中心に書きます。


 美穂のせいでトラックに轢かれちまったじゃないか。チクショー、チクショー、チクショー、チクショー。


 3万円ごときで目くじらを立てるなんて、度量の小さい女だ。娘を育てるものとして、月に10万くらいのおこづかいをよこすのが義務だ。


 寝たきり生活は退屈の一言。一刻も早く復活して、いろいろなことをやりたい。


 美穂は解決金として、1500万円を得た。目を覚ましたら、一銭残らず使い果たしてやる。


 主治医、看護師が話をしている。


「若葉さんの様子はどうですか?」


「思わしくはないですね。95パーセントの確率で、一カ月以内に死ぬでしょう」


 95パーセントの確率で、一カ月以内に死ぬだと。おまえたち、ふざけたことをぬかしてんじゃねえ。患者からお金をふんだくりながら、命まで奪うなんて道を踏み外したものがやること。金食い虫は今すぐに死んでしまえ。


「植物状態で助からなかったとしても、私たちの責任とはなりません。ダメもとでやっていきましょう」


 命を預かるものとして、あるまじき発言。手足を自由に動かせるなら、包丁で刺してやりたいところ。


「時速100キロのトラックに轢かれたのだから、あの世に逝ってほしかったですね。こちらの仕事を増やさないでもらいたいです」


 こちらも許しがたき暴言。テープレコーダーに録音して、you tube、ニコニコ動画、pixivなどに流したい。


「そうですね。助かる見込みのない患者に時間を割くほど、私たちは暇ではありませんから。この人にかかわっていたら、他の命を救えなくなります」


 100人を犠牲にしてもいいから、こちらの命を助けろ。植物状態の女の声は、誰にも届けられなかった。


「適当に思われない程度に、患者に力を尽くしていきましょう。医療事故と報道されたら、いろいろと厄介です」


「はい、そうですね」


 意見をいえないのをいいことに、好きかっていいやがって。奇跡の復活を果たしたら、病院に灯油をかけてやるんだから。

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