第91話 35年ぶりに同級生と再会(美穂編)
公園でのんびりしていると、男の人に声をかけられた。
「美穂ちゃん、35年ぶりだね」
「敦盛君、久しぶりだね」
白髪、皺は増えるも、35年前の面影はどことなく残っている。
「こんなところで何をしているの?」
「気分転換をしているの・・・・・・」
青空を眺めながら、新鮮な空気を吸う。こうしていると、嫌なことを少しだけ忘れられる。
「敦盛君はこっちに住んでいたんだね」
「ああ、10年前から住んでる。店は多くないけど、いいところだと思っている」
敦盛はどういうわけか、美穂の隣に腰掛ける。
「小学校時代はよくこうしていたよね・・・・・・」
「そうだね・・・・・・」
体調が芳しくないときは、膝枕をお願いしていた。そんなことをいえたのは、お互いの心が通じ合っていたから。限りなく恋人に近い親友以上、恋人未満の関係であるといえる。
敦盛はおおらかで、気配りのできる男性。美穂の知らない女性と、幸せな家庭を築いていると推測される。
隣に腰掛けている男性は、こちらに熱視線を送っている。美穂は照れ臭くなって、顔をそむける。
「美穂ちゃん、昔の感情は残っているみたいだな」
「男の人にじろじろ見られたら、照れるのは当然だよ」
二度の結婚を経たあとも、初恋はいくらかは残っている。最初に好きになった人は、墓場に行くまで特別な存在なのかもしれない。
「こんなことを聞くのはタブーだけど、結婚している人はいるの?」
「ううん。いないよ。敦盛君のほうはどうなの?」
「三年前に離婚してからは、独身を続けている。収入、年齢面から再婚は絶望的だ」
敦盛ほどの人であっても、離婚を経験するなんて。結婚生活の難しさを、あらためて思い知ることとなった。
「美穂ちゃんも独身なら・・・・・・」
敦盛はそこまでいったあと、首を横に振った。
「ううん、なんでもないよ・・・・・・」
話を途中でやめた男の膝に、頭をゆっくりと預ける。
「続きをいってもいいよ・・・・・・」
敦盛は顔を赤くした状態で、
「おつきあいをしてみよう」
といった。美穂は少しだけ考えたあと、「よろしくお願いします」と答える。初恋だった人と交際するとあって、心臓はドキドキしていた。
いい雰囲気になりかけていると、スマホの着信音が鳴った。
「もしもし・・・・・・」
太い声をしている看護師は、事実だけを淡々と告げる。
「懸命に治療しましたが、娘さんは助かりませんでした。命を助けられず、申し訳ございません」
「いえいえ、懸命に治療していただきありがとうございました」
娘の死によって、前に進み始めることができる。これからの人生に、ちょっとばかりの希望が芽生えた。
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