第92話 再出発(美穂編)

 再会した二人は、すぐに意気投合した。35年の時を経ても、相性の良さは健在だった。


「美穂、膝枕をしてほしいんだけど・・・・・・」


 敦盛はHなところを想像したらしく、鼻の下を伸ばしていた。


「敦盛、顔がいやらしいよ・・・・・・」


「美穂、自意識過剰だぞ。おばさんの膝枕に興奮するほど・・・・・・」


 おばさんと罵った男の唇を、力の限りつねってやった。


「いた、いたたたた・・・・・・」


「人にお願いするときくらい、言葉を選びなさい。誰がおばさんといわれて、膝枕をすると思っているの」


「わ、わひゃった。ひじゃまきゅらをおねぇがいします」  


 敦盛の唇に加えていた力を緩める。


「ぼ、ぼうりょくは・・・・・・」


「な、なんだ・・・・・・」


 鋭い視線を送りつけると、敦盛は続きをいうのをやめた。


「私でよかったら、膝枕をしてもいいよ」


 美穂の膝の上に、敦盛の頭が乗せられる。40年前と比べて、前頭葉の髪は薄く、白髪が増えていた。髪だけを見ても、着実に年を取っている。


「敦盛、髪の毛が薄くなっているね」


 敦盛は気に入らなかったらしく、太ももの肉をつまんできた。


「オニクガブヨブヨ・・・・・・」


「敦盛、ひどすぎるんですけど」


「小学校の頃は、ハリがもっとあったような・・・・・・」


 いいたいことをいいあうところも、35年前をそのまま受け継いでいた。


 敦盛は髪の毛を触った。

 

「40になってから育毛剤を試したんだけど、芳しい効果を得られなかったんだ」


「育毛剤の使い方を知らないみたいだね。薄毛を自覚してからでは、手遅れになることが多いんだよ」


 敦盛は間抜けな声を発する。


「そ、そうなの」


「薄毛になりたくないんだったら、20くらいから使っておくべきだったんだよ」


 髪の毛が生えないことを知り、敦盛はショックを受けていた。


「髪の毛がなくなっても、敦盛君は敦盛君のままだよ」


「僕も同じだ。美穂ちゃんは美穂ちゃんのまま・・・・・・スヤスヤ」


 敦盛は眠りについてしまった。膝枕をしている女性は、その姿にほほえましい笑みを向けていた。

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