第89話 病室に足を運ぶ毎日(美穂編)
娘は植物状態になってから、二週間が経過した。
事故を起こした容疑者の家族と話をして、1500万円の和解金をゲット。一円も払われないことも多いので、お金を得られたのはプラスといえる。
1500万をゲットした直後、生活保護はあっさりと打ち切られた。お金を得た以上、生活保護を切られるのはやむをえまい。
生活保護を切られたからには娘の入院費を、自力で支払っていく必要がある。上限が決められているとはいえ、毎月の家計を圧迫していく。10年も生きるようなことがあれば、家計は完全に火の車。お金を残すためにも、一刻も早く死んでほしい。
病室に入るとすぐに、女看護師に冷たい視線を浴びせられる。心の中では、人殺し、殺人野郎と罵っていると思われる。お金を取り戻そうとしただけで、どうして殺人犯として扱われなくてはいけないんだ。正当な権利を主張しただけである。
娘が金銭を盗んだ場合、親族相盗例として扱われる。わかりやすい言葉に言い換えると、親族間では窃盗罪などを処罰できないというもの。やったもの勝ち、盗んだもの勝ちの状況となっている。
やられたもの勝ちを変えていくためにも、親族相盗例は即刻廃止すべき。もめごとの要因になる法律は、百害あって一利なしだ。
三万円窃盗女は、憎たらしい寝顔をしている。起きているときだけでなく、眠っている間もストレスを増大させる。
出産した子供はかわいいとよくいわれるけど、若葉は一ミリも当てはまっていなかった。人生をめちゃくちゃにした張本人には、一刻も早くあの世に旅立ってほしい。
50くらいのぶくぶく太った、主治医が部屋に入室してきた。
「娘の容態はどうですか?」
「力を尽くしてはいますが、助かる見込みは低いでしょう。数カ月以内に、死に至ると思われます」
こぶしを握り締めたくなるも、ぐっとこらえる。第三者の前で人の死を喜ぶ人間とは思われたくなかった。
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