第88話 若葉の容態確認(美穂編)

 娘の様子を確認するため、若葉のプレートが張られた部屋の中に入った。


 医者、看護師たちは命を助けるために、娘を懸命に治療している。自分たちのプライド、威信にかけて、植物状態になった女を救おうとしている。そんな姿を見て、心の中で大きなため息をつく。あいつが生き返ろうものなら、たくさんの人間に災いをもたらす。適当な治療をして、あの世送りにすればいいんだ。植物状態の娘が死んだとて、誰からも非難されることはない。


 美穂の姿を確認すると、看護師の一人がこちらにやってきた。睡眠不足なのか、目にクマができている。


「娘さんは助かったものの、依然として厳しい状況です。生存確率は10パーセントといったところでしょうか」


 時速100キロのトラックに轢かれたのに、10パーセントも助かる見込みがあるなんて。奇跡石に一命をとりとめたものの、100パーセントの確率で死ぬと思っていた。


「おかあさまのためにも、娘さんを絶対に助けてみせます。私たちのことを応援してください」

  

 娘を助けるのではなく、あの世に送ってやってくれ。植物状態から生き返れば、こちらの労力を増やすだけ。そのように思いながらも、愛想笑いを浮かべる。


「お願いします。娘を助けてやってください」


 社会で生きるためには、嘘をつく場面もたびたび出てくる。本音ばかりで生きていたら、衝突のオンパレードだ。


「おかあさんの期待に応えるためにも、我々は全力を尽くしていきます」


 女性看護師に対して、主治医から厳しい言葉が投げかけられた。


「長々と話をせずに、こっちを手伝ってくれ」


「わかりました。すぐにそちらに向かいます」


 女看護師は仕事に戻った。その様子を確認したあと、病室をゆっくりとあとにした。


   


 

 

 

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