第87話 若葉は植物状態

 若葉はトラックに轢かれるも、かろうじて一命をとりとめる。トラックに轢かれても死なないあたり、生への執念を持ち合わせている。


 九死に一生を得た女は、植物状態から奇跡の復活を果たすのか。今後の推移に注目していかねばなるまい。


 二股女の財布の中には、三万円が入っていたらしい。推測の域を出ないものの、母の財布から盗んだだと思われる。あいつだったら、それくらいのことはやりかねない。最後の最後まで、他人に迷惑をかける部分は一流だった。


 お風呂に入る準備をしていると、電話がかかってきた。


「とうさん、どうしたの?」


「若葉があの世に旅立った場合、美穂と同じ空間で生活したいか」


 胸の中にある思いを正直に伝える。


「ううん、やめておくよ」


 美穂の顔を見るたびに、若葉を思い出すことになりそう。悪い記憶は永久的にシャットアウトしておきたい。


 正志は大きく息を吐いた。


「わかった。あの一家とは完全に縁を切る」


 正志は感情を殺して淡々と話しを進めていく。あまりにそっけなく、ロボットさながらに感じられた。


「とうさんは再婚するつもりはないのか?」


 答えが返ってくるまでに、若干の間があった。心の整理をしてから、話をしようとしている。


「それについてはわからないけど、次に結婚するときは、もうちょっと落ち着いた家庭の人にしようと思っている。美穂たちはその条件を満たしていなかった」


「ああ。そうしてくれ・・・・・・」


「いろいろと迷惑をかけてすまなかった・・・・・・」


 正志は電話を切った。

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