第86話 植物状態になった娘(美穂編)
トラック事故により、10人の男女が病院に運ばれた。3人は重傷で、病院で手当てを受けている。
トラックに轢かれた張本人は、全身を強く打った。すぐに病院に運ばれたこともあり、奇跡的に一命をとりとめてしまった。
車に轢かれたあとも、他人の自由を奪い続けるとは。このレベルまで到達すると、悪霊がついているのを疑うレベル。
植物状態の娘には、10本ほどの点滴の管がついている。1本でも抜いてしまえば、死霊はあの世に旅立っていくはず。事故と見せかけて、あの世に送ってしまえればいいのに。
事故死を装う方法を考えていると、看護師がやってきた。
「おかあさん、どうかしたんですか?」
「娘の容態が気になって・・・・・・」
助かることを望んでいるのではなく、あの世に旅立つことを願っている。植物状態の娘が死んだとき、自由の身を手に入れられる。
「低確率ではあるけど、回復の可能性も残されています。私たちとしては、二人が生活できるように力を尽くしていきます」
力を尽くすのではなく、命を奪ってほしい。心の中にある本音を、公にすることはできなかった。
看護師の冷たい言葉の矛先は、こちらに向けられることとなった。
「3万円を奪ったくらいで、あそこまで追いかける必要はあったんですか。高校生のやったことくらい、親として大目に見てあげてくださいよ」
生活保護を受ける者にとって、三万円は命取りになる。勝ち組人生を歩んできた、看護師たちに理解するのは無理だ。
「あなたが追いかけなければ、娘さんは事故にあわずにすみました。あなたのやった行為は、娘さんを殺したも同然です。疑似殺人犯として、罪滅ぼしをしてくださいね」
家庭の事情を知らない女に、どうしてここまでいわれなくてはならないのか。心の中ではそう思いつつも、歯をくいしばって耐えることにした。
娘に視線を送った。眠っているにもかかわらず、何かをやらかしそうな顔をしている。全身で恐怖を感じ、体はぶるぶると震えた。
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