第85話 トラックに轢かれる(若葉編)
母は退院して間もないため、全力疾走する余力はないはず。若い女性が全速力で走れば、簡単にまくことができる。
「若葉、お金を返しなさい」
退院したばかりの分際で、ここまで追いかけてくるとは。お金のことになると、ゴキブリさながらにしつこい。娘を養うことに対しても、同じくらいの執着心を持てばいいのに。
若葉のすぐそばを、キックボードが通りすぎる。それなりのスピードを出しており、ぶつかれば大惨事になっていた。
美穂をまくために、1キロ程度も走らざるを得なかった。全力疾走を続けていたこともあって、体は汗でびっしょりだった。
慌てて逃げ出したために、ハンカチを準備していなかった。汗は自然乾燥に任せるしかなさそうだ。べったりとした液体をすぐにふけないのは、屈辱そのものだ。
百貨店の目の前で、信号に足止めされる。ほんのちょっとまで迫っていることもあり、非常に腹立たしく感じる。
信号待ちをしていると、母らしき声が聞こえる。逃げ切れたと思っていただけに、驚きを隠せなかった。先月まで入院していたクソババアの体のどこに、エネルギーが残されているのか。
「若葉、盗んだお金を返しなさい・・・・・・」
美穂は息を切らしながらも、30メートルまで迫っていた。このままでは、捕まるのも時間の問題だ。
左右から車が来ていないのを確認したのち、赤信号の横断歩道に猪突猛進。悪魔から逃げ切って、ブランド品を購入してやるんだ。
横断歩道の半分に差し掛かったあたりで、時速100キロで突っ込んできた車に轢かれる。数秒後、魂はあちらの世界観に吸い込ていく。不幸な人生は、16歳にして幕を閉じようとしていた。
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