第95話 若葉の死

 植物状態で生死をさまよっていた二股女は、16歳にして人生の幕を下ろす。


 あいつで生きているだけで、多数の人間に迷惑をかけていた。あの世に旅立ったことにより、大勢の人間が救われるのは確実だ。


 若葉の死亡を知ったとき、美穂はどのような感情を持ったのか。本心をのぞけるのであれば、一度のぞいてみたい。


 とうさんに子供がいなかったら、美穂と再婚していたのか。こちらについては、永久的に謎のままである。仕事一筋のとうさんが、再婚相手にどれくらい愛情を持っていたのかも未知数なままだ。


 教科書を整理をしていると、一本の電話がかかってきた。


「とうさん、どうしたんだ?」


「若葉は死んだ。おまえの苦しみは、ちょっとは解放されるかもしれないな」


 一度負った傷は、永久的に残り続ける。記憶に蓋をして、なるべく思い出さないようにしよう。


「美穂さんと再婚するつもりはないのか?」


 正志から回答を得るまでに、若干の間があった。 


「俺は追い出した人間だ。いまさら戻って来いなんて、虫が良すぎると思わないか」


「そうかもしれないけど・・・・・・」


「美穂のことだ。いい相手を見つけて、幸せになっていくだろう」


 暴走する一面はあるけど、優しいおかあさんだった。魅力たっぷりの女性は、引く手あまただと思われる。


「そうなるといいな・・・・・・」


「仕事が忙しくなりそうだから、恋愛は完全封印することになりそうだ。寂しい思いをさせるけど、我慢してくれ」


「ああ、仕事、頑張れよ・・・・・・」


 とうさんの電話は切れた。静かな部屋で過ごしていると、わずかばかりの寂しさを感じた。それでも、若葉と生活していたときよりは、ずっとずっとよかった。


*次からは勝の恋愛編スタートです。どんな展開にするのかは、まったく考えていません。主人公が二人の女に惚れるパターンも、もしかしたらあるかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る