第94章 敦盛を自宅に招待(美穂編)

 美穂は新しい家に、敦盛を招待する。


「狭い家だけど・・・・・・」


「ほんとにせま・・・・・・」


 いいたい放題、やりたい放題の男の足を、力の限り踏んづけてやった。


「グエ・・・・・・」


「敦盛は遠慮がないんだから・・・・・・」


「美穂だって、失礼なことばかりいっているじゃないか」


 口元を抑えながら、小さく笑った。


「そ、そうかもしれないね・・・・・・」


 一人目の夫、二人目の夫と生活していたときは、自分を押し殺すことを優先していた。我慢することで、健全な結婚生活を装っていた。


「こっちで一緒に住まないか。いい生活はさせてあげられないけど、最低限なら保証する」


 敦盛からの突然の提案に、すぐに理解は追いつかなかった。


「私はいいけど、迷惑をかけることになるよ」


「ああ。小学校時代からの仲良しと、同じ空間で生活してみたいんだ。美穂が良ければ、すぐに一緒に住もう」


 50に迫ろうとする女は、小学校時代の仲良しを思いっきり抱きしめる。


「敦盛、ありがとう・・・・・・」


 35年ぶりに抱きしめた男は、おなかに大量の脂肪をたくわえていた。


「メタボ・・・・・・」


「栄養失調・・・・・・」


「ハゲ・・・・・・」


「おっぱいぶらんぶらん・・・・・・」


 体をゆっくりと離したあと、敦盛のほっぺをつねる。


「いったな」


 敦盛も負けじと、ほっぺをつねってくる。小学生時代と比べると、力は弱まっていた。劣化したのは、髪の毛だけではなかった。


 二人は同時に手を離した。つねられていたものの、痛みはほとんどなかった。


「美穂、子供はいるのか?」


 若葉は先ほど旅立ち、命を授かった子供は0となった。嘘つきではないニュアンスを込めて、初恋の人に説明する。


「いないよ。敦盛さんはいるの?」


「ああ。僕には18歳、15歳の息子がいるんだ。おかあさんを欲しがっていたから、美穂と再婚したら喜んでくれると思う」


「私でよければ・・・・・・」


「僕はすぐにしたいけど、家族との顔合わせなどをすませておこう。新しいお母さんが急にやってきたら、息子たちは混乱すると思う」


 正志と再婚するときは、顔合わせを省略した。それが深い災いをもたらすことになるなんて、頭の片隅にもなかった。


「わかった。顔合わせをしてから、二人のことを決めようね」


「ああ。小学校時代の最高の友人を幸せにしてみせる」


 春の予感に対して、胸は大いに弾んでいた。


*美穂の話はここで終わりです。二人の幸せを願ってあげてください。

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