第108話 完全に墓穴を掘った(都編)

 ホラー映画をチョイスしたことで、心証を損ねてしまった。勝の様子を見ている限り、挽回する機会すら皆無だ。


 攻める姿勢も大事だけど、ほどほどにしておくべき。過ぎたるは猶及ばざるが如し、を頭に叩き込ませておかねばならなかった。


 勝にも伝えたとおり、一途な性格をしている。高校を卒業するまでは、彼のことだけを思い続ける。


 コーヒーを飲んでいると、いつもよりも苦く感じられた。強いストレスを感じたことで、味覚に異常をきたしているのかなと思われる。


 次回のためにとっておいた、一万円札一枚を見つめる。勝のために使う予定だったお金は、永久的に出番を得ることはなさそうだ。


 スマホを手に取ったあと、デートのお礼を伝える。付き合ってもらったのだから、これくらいのお礼はしたいところ。


「今日はありがとうございました」


「また、お願いします」と入力しても、勝の評価を下げるだけ。デートのお礼だけを、簡潔に伝えることにした。


 勝からの連絡はなかなか返ってこない。二度と相手をしないと決めた女に対しては、対応しなくてもいいと思っているのだろうか。温かい部分、冷たい部分の両方を持っている男なのかな。


 テレビをつけると、男女のデートシーンが映し出される。大好きな男の心証を損ねたこともあり、画面を見ていられなかった。テレビの電源をすぐさま、オフにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る