第107話 都の好きな映画
都と映画館にやってきた。
「勝君と映画を見られるなんて、夢を見ているみたいだよ」
「都さん、どんなジャンルを見るつもりなの?」
聞いてほしい質問だったのか、都は目をキラキラと輝かせていた。
「ホラー系の映画だよ」
ホラーは好き、嫌いがはっきりと分かれやすいジャンル。相手の好みをチェックしないうちは、きわめて危険な部類に入る。
都は鼻は少しだけ伸びる。
「ホラーの中でも、飛び切り怖いものにしてみたんだ。タイトルは『生物同士の生き残り合戦』」
温厚な女性の裏の一面に対して、背筋はぞっとしていくのを感じた。
「そ、そうだね・・・・・・」
「映画館に二人で入ろうよ」
「あ、ああ・・・・・・・」
おぞましいホラーを見るくらいなら、そのまま帰ってしまいたい。ノリノリになっている女性を前にして、そんな感情を抱いていた。
都は手をつないでくる。千鶴と手をつないでいたときはノリノリだったけど、今回はそこまでではなかった。愛情に歴然の差があるのを感じた。
二人は映画館に入った。映像を見ていない状態で、帰ってしまいたい気分だった。怖すぎるホラー映画は、単なる嫌がらせだ。
映画館の中はガラガラ。こんな人数で、どうやって利益を出せるのかを聞いてみたくなった。
「勝君、この席だよ」
一番前の席で、ホラー映画を見せられる。楽しいはずの時間は、究極の罰ゲームへと姿を変わろうとしていた。
映画スタートまで、スマホの画面をチェックする。都と会話をする気持ちは、完全に消え失せていた。
映画がスタートする。期待0パーセント、不安20パーセント、憎悪40パーセント、諦め40パーセント。プラスは一ミリもなかった。
ゾンビがカマを持って、他のゾンビの首を切り落とす。凄惨な映像に、無意識のうちに目をそらした。
「勝君、スリル満点だね・・・・・・」
恐怖の沸点を超えたため、小さな声を返すのでいっぱいいっぱいだった。
「ああ・・・・・・」
初めての二人きりのデートで、ゾンビがゾンビを殺す映画を見せようとするなんて。彼女に対する思いは、完全に潰えた。都はそれに気づいていないらしく、一人で話を進める。
「ゾンビ同士の殺し合いのあとは、トラ同士の殺し合いがスタートするの。こちらはさらに迫力満点だよ」
若葉以上の逸材候補だ。この人とかかわることは、永久的に訪れないという確信を持った。
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