第78話 娘の退学&窃盗未遂&離婚(美穂編)
ゆっくりと休めたことで、体調は回復傾向にあった。娘のために力を尽くそうとするあまり、自分の体をないがしろにしていた。
背伸びをしているときに、スマホの着信音が鳴った。
「もしもし・・・・・・」
「美穂か・・・・・・・」
仕事で忙しいはずの正志からの連絡。美穂はすぐさま、緊急事態であることを察する。
「美穂の娘は高校を一週間にわたって、無断欠席しているみたいなんだ。二人でやり取りをして、高校の退学手続きを取ることになった」
常識のない娘とはいえ、高校くらいは無事に卒業すると思っていた。心の中のかすかな期待は、木っ端みじんに打ち砕かれる。
「若葉は本当に、そのようなことをいったんですか?」
正志は落ち着いた声で答える。
「ああ。録音してあるから、それを聞かせる」
数秒後、二人のやり取りが流される。
「学校に行かないなら、すぐにやめてもいいぞ」
「おとうさま、ありがとうございます。すぐにやめさせていただきます」
高校をノリノリでやめようとする娘。学校に通学するモチベーションを完全に失っている。
「最終確認を取るぞ。学校を退学する手続きをしてもいいんだな」
正志の淡々とやり取りを進める。感情を押し殺す話し方は、相手に落ち着きを与える効果を持つ。
「はい。学校なんて面白くないので、すぐに退学させていただきます」
「よし、わかった。高校の退学手続きをしておく」
正志、若葉のやり取りから聞こえた声は自然そのもの。細工をしたようには見えなかった。
「美穂には退学手続きを取ってもらう。生みの親である、君の口から退学することを告げてほしい」
新しい学校では、二週間以上の無断欠席で自動退学扱いされる。放置したとしても、状況を好転させるのは難しい。
「はい、わかりました」
「公にされていないものの、窃盗未遂の情報を入手した。お金がなくなったら、盗みを働くなんて言語道断だ」
正志は大きな息を吐いた。
「申し訳ないけど、君との婚姻関係も終わりにする。娘とのつながりを持つことは、こちらとしても容認しがたい。離婚後については、仕送りをストップさせる。生活保護でもらったお金でなんとかしてくれ」
新しい家にきたときに、頭の中に真っ先に思い浮かんだ離婚。ここまでもったことを、奇跡と思ったほうがいいのかもしれない。
「短い間だったけど、いろいろと世話になった。今後の健闘を祈っているよ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
電話を切ったあと、深い息を吐いた。
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