第79話 悪夢再び(若葉編)
「若葉は聖人君子」、「若葉は世界最高の傑作」、「若葉様最高」、「若葉神様」の着信音が部屋に鳴り響く。これを聞くことによって、落ち着きを取り戻す。
電話を受け取ると、感情を殺した声が聞こえた。
「退学手続きについては、美穂にすませてもらった。明日からは、高校に行かなくていいぞ」
学校から解放され、晴れて自由の身となる。勉強にまじめに取り組むのは、愚か者がやることだ。
「ありがとうございます。高校から解放されたことを、心から嬉しく思っています」
これで終わりかと思っていると、勝の父からさらなる続きがあった。
「君のおかあさんと正式に離婚し、面倒を見てもらうことになった。生活保護の申請の話は役所に通してあるから、予算内で生活してくれ。今月の家賃、水道代、電気代、ガス代については特別に支払っておく」
娘に満足にごはんも食べさせられない、ダメの見本と同じ場所で生活させられる。地獄が戻ってくることに、強烈な絶望感をおぼえた。
「学校にまじめに通うので、母と生活するのは勘弁してもらえないでしょうか?」
勝の父は諭すように、若葉の質問に答える。声のトーンは穏やかだけど、内心では完全にバカにしている。
「退学の手続きはすでにすませた。学校に戻りたいなんて、都合の良すぎることはありえないと思ってくれ。高校をやり直したいのであれば、入試を受けるところから始めればいい。学費については、一円も負担しないから」
母と生活すると知っていれば、学校に通う選択を取った。大事な部分を隠して、交渉を有利に進めるなんて卑怯者のすることだ。
「離婚についても、すぐにすませておく。君とはこれで、完全に縁を切ることになる。スマホについては、持ち主にしっかりと返しておこう」
「心を入れ替えますので、もう一度だけチャンスをください」
「君はいろいろと問題を起こしすぎた。心を入れ替えるといっても、誰も信用しないだろ」
「ラストチャンスをください」
「そう思うのなら、これまでの行動で示しておくべきだった。息子のパンツを頭からかぶる女を、信じられるわけないだろ」
電話は切れた。すぐにかけなおすも、つながることはなかった。
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