第76話 正志からの話(美穂編)

 正志は小さく咳をする。


「あいつは一円残らず、お金を使いきっているらしい。計画性のかけらも感じさせないところは、完全に父親譲りだ」


 家賃、光熱費、水道代、電気代を未払いの状態で、お金を全部使いきるなんて。計画性のなさは、詐欺で逮捕された元夫の血をそのまま受け継いでいる。


「次に大きな問題を起こしたら、こちらとしてはもうお手上げだ。離婚届に署名して、縁を完全に切らせてもらう。生活保護は受けられるようにしておくから、それで生活をやりくりしてくれ・・・・・・」 


 離婚することになっても、ライフラインはしっかりと確保しておく。第三者としてできることは、すべてをやろうとしている。


「勝のパンツを自分の部屋でかぶり、パンツを一枚を引っ越し時に持ち出し、保険金殺人をたくらみ、振り込んだお金はすぐに使い切る。どんな教育をしたら、駄目の見本に育つんだ。わかる範囲でいいから、教えてくれないか」


 後半の部分は聞かされていたけど、前半についてはまったく知らなかった。事実だとするなら、完全に逝かれてしまっている。


「それは・・・・・・」


 正志は右手をゆっくりと、美穂の左肩にのせる。


「あの女は生きている限り、美穂の足を引っ張り続ける。あいつが成人を迎えたら、すぐに縁を切るようにしろ」


「う、うん・・・・・・」


 正志は手を離したあと、小さな咳をする。


「明日から1カ月くらい、取引先との面談が立て続けに入っている。今後のやり取りは、電話のみで行うことにする。娘の素行によっては、別々の生活になることを覚悟しておいてくれ」


 ダメな娘を持ったために、人生の歯車は狂いっぱなしの状態。こんなことを思ってはいけないのかもしれないけど、娘にすぐにあの世に逝ってほしい。あの子さえいなくなれば、災いのもとはすべて取り除かれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る