第75話 一文なし(若葉編)

 お金は完全に底をつき、一文なしの状態となった。振り込み日までは、うまい棒一本すら買えない生活を送ることが決定した。

 

 生活費さえ振り込まれれば、一文なしはすぐに解決する。意固地にならずに、お金を分けてくれればいいのだ。命を犠牲にしたとしても、娘の贅沢を優先するのが親の義務だ。


「若葉は聖人君子」、「若葉は世界最高の傑作」、「若葉様最高」、「若葉神様」に設定した、スマホの着信音が鳴る。誰も称賛してくれないなら、自分で称賛すればいい。


「かあさん、金、金、金、金、金、金・・・・・・・」


 スマホから聞こえてきたのは、もっとも聞きたくない声だった。


「金の亡者さながらに、金、金、金、金か。中身は空っぽなのに、金に対する執着心だけは一人前だ」


「うるさいわね。あんたは黙って、金をプレゼントすればいいの」 


 電話の向こう側で「うーん」という声が聞こえた。


「なるほど。仕送りをやめてほしいのか。来月からは、お前の力だけで生活するなら、こちらは構わないぞ」


 金をプレゼントしろといったのであって、仕送りをやめろとはいってない。こいつの耳は腐りきっている。


「家賃、光熱費、水道代、ガス代などの経費はこちらで負担する。おまえに任せておいたら、滞納が膨れ上がっていくだけだ。仕送り金額については、来月から5万円に減らし、一週間ごとに4分の1ずつを支給したほうがいいな」


 5万円ぽっちの生活費で、どうやっていけというのか。指定された金額では、ブランド品を満足に買うのも難しい。

 

「こちらからできる譲歩はここまでだ。これでもダメなら、母に面倒のすべてを任せる。生活水準が底辺まで下がるのを覚悟しておけ」


 母と二人きりの生活は、地獄よりもひどかった。あんな生活だけは、二度と経験したくない。


「こちらからいえるのはこれだけだ・・・・・・」


 電話は切れる。若葉がかけなおすも、つながることはなかった。苛立ちのあまり、スマホを地面に何度も叩きつけた。

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