第64話 冬樹の中身が入れ替わった?

「勝、おはよう・・・・・・」


 冬樹の服装を見て、いつもとは異なる雰囲気を感じた。


「お、おまえは冬樹なのか」 


 どうしてそんな質問をするのか、冬樹の顔はそのように語っていた。


「そ、そうだけど・・・・・・」


「恰好が全く違うじゃないか・・・・・・」


 これまではカッターシャツの第二ボタンまで留めず、ズボンも破れたものをはいていた。髪もぼさぼさで、だらしなさばかりが目立っていた。


 本日はカッターシャツのボタンをすべて止め、ズボンもきれいなものとなっている。紫色だった髪の毛を黒に染めるなど、真面目人間そのものだった。


「冬樹、どうかしたのか?」


 冬樹は後頭部を手で触った。


「二日前に頭を強く打ったんだ。生死をさまよっているうちに、元の自分について忘れてしまった。医者の説明によると、過去の記憶の一部が飛んでいるらしい」


 頭を打ったショックで、人格が入れ替わってしまった。信じられない話だけど、他に説明のしようはなかった。


「親からこのままだと、留年が危ないと聞かされた。必死に勉強しまくって、学年をあげられるようにしていかなければ」


 若葉のことばかりを考えて、宿題に向き合ってこなかった。そのような男から、勉強をすると聞かされるなんて。現実にいるのではなく、夢の世界を生きているかのようだ。


「若葉のことは覚えているか?」


 冬樹は強いショックに見舞われたのか、教室内で大声を張り上げる。クラスメイトは声を遮断するために、耳をふさいでいた。勝も鼓膜を守るために、耳を強く塞いだ。


 冬樹の大声は、一〇秒ほどでストップした。


「他人をいたぶることに快感を覚え、生きているだけで周囲を不幸にする女だったような・・・・・・」


 神様とたたえていた女性を、とことんまでこけおろす。頭を打ったショックで、浮気女に対する印象が180度変わっている。


「若葉と交際していることは覚えているか?」


 冬樹は首を横に振った。


「あのクズ女と交際しているのか。すぐに破局し、健全な日常を取り戻さなくては・・・・・・」


 クラス一頭のおかしい男は、頭を打ったショックでまともになる。できることなら、このままであり続けるといいな。保険金殺人をたくらむ女を好きになっても、幸せになれる確率は0パーセント。


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