第61話 金欠(若葉編)

 引っ越し時に渡されたお金は、あっという間に底をついた。


 金欠になったのは、手渡しの金額が少なすぎるから。15万ぽっちのお金で、引っ越し、生活費を賄えというのは、あまりにも無理難題すぎる。一人暮らしをさせるなら、あと10万、20万は用意すべきだ。追い出した慰謝料として、100万くらいもらってもいいレベル。


 おかあさんに頼れば、お金をどうにかしてくれるはず。着信拒否設定を解除するとすぐさま、電話をかけることにした。


 スリーコールしても、電話に出る気配はなかった。娘からの着信を無視するなんて、人間失格レベルだ。


 シックスコールしても、電話に出なかった。母さんから無視されたことに腹を立て、スマホを地面に思いっきりたたきつけてやった。これで破損しようものなら、すべてはかあさんの責任だ。


 スマホは幸いにも、破損していなかった。修理代を請求されなかったことを、幸いに思っておけ。


 若葉のスマホの着信音が鳴った。番号はかあさんからとなっていた。


「電話にすぐに出ないのはどうしてなの。娘の着信を拒否するなんて、人間失格だよ」


「ほほう、おまえがそれをいうのか・・・・・・」


 電話から聞こえてきたのは、家から追い出した悪魔だった。


「着信拒否したくせに、自分からかけてくるとはな。お金がなくなったから、振り込めとでもいいたいのか」


 何も話していないのに、状況をしっかりと察している。勝の父には、エスパーが備わっているかのようだ。


「最低限の生活をできるよう、十分なお金を振り込んである。金欠になったなら、自分で働いて工面しろ。こちらとしては、これ以上の面倒を見切れん」


「あんなお金で足りるわけ・・・・・・」


 勝の父は、電話を一方的に切った。電話からは、ツーツーツーという音が流れていた。


 

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