第60話 入院生活を終えた(美穂編)

 入院生活を終えて、家の前に戻ってきた。


 若葉はすでに家を追い出され、新しいところで生活をスタート。一人では何もできない娘は、問題なくやっていけているのか。生みの母親としてそのことが、おおいに気になっていた。


 家の中に入ると、勝は温かく出迎えてくれた。


「おかあさん、おかえりなさい・・・・・・」


「入院中はいろいろとありがとう。早く退院できたのは、勝さんのおかげだわ」


「僕はたいしたことはしていません」


 優しいだけでなく、謙虚さも持ち合わせている。一つだけでいいので、若葉に分けてあげたいところ。

 

 若葉に電話をかけるも、ツーツーという音が流れるのみ。実の母親を着信拒否にするなんて、非常識極まりない娘。親として恥ずかしい気分になった。


「若葉の新しい住所を教えてほしいんだけど・・・・・・・」


「僕は知らないので、父に聞いていただけますか」


 勝の意思をくみ取り、若葉の話は最小限にしたのか。社長をやっているだけあって、線引きはしっかりしようとしている。


「若葉のひどすぎる発言を聞いたことはあるの?」


「父から聞かされました。あまりにひどすぎて、擁護のしようがありません」


「どんなことをいっていたの」

 

「絶対に聞かないほうがいいです。あれを聞いたら、すぐに再入院することになるでしょう」 


 着信拒否をするような娘は、どのようなことを発していたのか。若葉を育ててきた母として、避けては通ることは許されない。


「聞かせてほしい・・・・・・」


「わかりました。父から預かっているテープを取ってきますので、しばらくお待ちください」


 勝が二階に上がっている間に、胸に手を当てて何度も深呼吸をする。


 元夫、若葉のひどすぎるやり取りを聞いて、意識は飛びそうになった。勝が後ろから支えてくれておかげで、尻餅をつかずにすんだ。


「多額の保険金をかけて、二人で楽をしようと考えていたのね。あの二人ならやりかねないかもね」


「従妹の家で生活したのは、保険金の話を聞いたからです。人間=金としか思っていない人とは、一緒にいられません」


 保険金目当てに人を殺めようとする娘。逃げる場所があるなら、他の場所に逃げるに決まっている。


「若葉の生活のすべてを、父が面倒を見るといっています。おかあさんは自分だけのことを考えて生きていきましょう」


 保険金の話を聞いたことで、娘に対する愛情はすべて消し飛んだ。これからは、赤の他人として生きていくと決意した。


「そうだね。これからは自分のことだけを考えるようにするわ」


「おかあさん、一年くらいはしっかりと休みましょう。お医者さんからは、それくらいの休養が必要だと伝えられました」


 一年以上の休養が必要なほどに、体は蝕まれていた。もっと、もっと、体をいたわる時間を増やして、健康な体を取り戻していきたい。 


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