第69話 美穂とご飯
若葉のやり取りを聞いてから、美穂は吹っ切れた生活を送っている。彼女の目を見ていると、娘に対する未練は消滅したと思われる。
懸命に育ててきた子供に、死んでしまえばいいと思われる。育ての親として、どのような感情が芽生えるのか。
「勝さん、ご飯を一緒に食べましょう」
「わかりました」
テーブルに並んでいるのは、マーボーナス、麻婆豆腐、八宝菜、餃子。中華料理のオンパレード。
「おかあさん、気合を入れたんですね」
「そうだよ。がんばりすぎちゃった・・・・・・」
「大変申し上げにくいのですが、二人では食べきれません。残ったものはどうするつもりですか?」
料理は少なく見積もっても、5~6人分はある。男子高校生、一時の母だけで食べるのは到底不可能だ。父がいたとしても、料理を平らげるのは難しい。
「ごめん、深く考えていなかった・・・・・・」
「夜も食べられますから、同じものにしましょう」
美穂は小さく頭を下げる。
「気をつかわせてごめんね・・・・・・」
「手作り料理を食べられることに、すごく感謝しています。本当にありがとうございます」
父と二人で生活していたときは、出前もしくは外食ばかり。母の手作り料理を食べる機会に恵まれなかった。
「従妹さんを招待するのはどうかな。勝ちゃん、お世話になったんでしょう」
「新しい彼氏を作ったみたいなので、そちらに時間を割いているのではないでしょうか」
新しい彼氏を作ってからは、相手にされる機会は激減。大切にすべき存在、距離を取るべき異性をきっちりと見極めている。
「従妹さんも恋多き女みたいだね」
「そうかもしれません・・・・・・」
恋をすることで、自分を落ち着かせる。恋愛依存症を疑ってもいいレベルに達している。
大好物の八宝菜を食べた直後、涙がぽつぽつと流れる。
「勝さん、どうしたの?」
「手作り料理があまりにもおいしくて・・・・・・・」
美穂の耳たぶは赤くなった。
「そんなに褒められたら、手作り料理をますます作りたくなっちゃうわ」
「おかあさん・・・・・・」
「ごめん、ついつい・・・・・・」
二人でご飯を食べていると、血のつながった母とご飯を食べていたころを思い出す。笑顔たっぷりの食卓は、幸せの理想形そのものだった。
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