第46話 冬樹からの提案

「勝にお願いしたいことがあるんだけど」


 いつもは適当すぎる男が、真剣な顔をしている。よっぽどの話があるのを察した。


「冬樹、どうかしたのか?」


「若葉と同じところで生活するのは嫌なんだろ。一時的でかまわないので、同居する権利を欲しいんだけど・・・・・・」


 変人としか思えなかった男が、一瞬だけ神様に見えた。冬樹様.、不良女を引き取っていただけないでしょうか。本音ではそう思いつつも、現実的な話をする。


「18歳未満の男女を無許可で連れ出した場合、未成年誘拐罪で罰せられることになる。おまえの将来に悪影響を及ぼすことになりかねないぞ」


 未成年誘拐罪は未成年の許可を得ていたとしても、犯罪として成立する。18歳未満を誘う場合は細心の注意を払ったほうがいい。面倒にならないために、そもそも誘わないほうが無難といえる。 


 信者さながらの男は、犯罪の2文字では引き下がらなかった。


「女王様と一夜を過ごせるなら、そのあとはどうなってもいい。ほんのわずかな期間であったとしても、女王様と二人きりの生活をしたい」


 すべてを捨ててまで、若葉との時間を確保しようとする。こいつの脳内は、どのような構築をなされているのか。


「若葉の父は1億以上の借金をしている。あいつと結婚したら、借金までもれなくついてくるぞ」


 父の話によると、さらに増えているのではないかといっていた。庶民はどんなに力を尽くしても、返金するのは難しい。


「1億くらいの借金で、愛をあきらめるわけないだろ。どんなことがあったとしても、女王様を支えていくつもりだ」


 二人で話をしているところに、若葉がやってくる。話を聞いていたのか、眉間に大量の皺を寄せている。


「あんた、人の都合も考えなさいよ」


 おまえがいうなと思ったものの、本音を心の中にしまいこむ。


 冬樹は興奮した様子で、若葉に夜を過ごしたいと伝える。いつもは強気な女は、たじたじになっていた。


「あんたと夜を過ごすなんて、いやに決まっているじゃない」


 冬樹は手を合わせたあと、若葉に対して頭を下げる。


「女王様、お願いをかなえていただきたいです」


「あんた、いい加減にしなさい。さもなくば、警察に相談するわよ」 


「女王様、冷たくしないでください」


 平行線の話を聞くのは時間の無駄。適当な理由を告げて、二人のところからいなくなった。

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