第45話 神出鬼没な男(若葉編)

 現実逃避をするために、外でゆっくりと散歩することにした。目の前の現実を考えてばかりいたら、酸素が体中にいきわたらなくなる。


 散歩をしている途中で、男に声をかけられる。一番聞きたくなかった声なので、瞬時に誰なのかを判断できた。


「若葉、どうしたんだ・・・・・・」


 先ほどまで青かった空は、黒みを帯びるようになった。冬樹の声を聴いた、若葉の心とどことなく似ている。


 ストーカーの前を通り過ぎようとするも、とおせんぼされる。「どけ」と大声を出したとしても、こいつはそのとおりにはしないだろう。


 冬樹は一方的に話を始める。


「困っていることがあるんだろ。俺でよかったら、相談に乗るぜ」


 勝と破局してから、頼りにできる人を失ってしまった。藁にもすがりたい思いで、ストーカーに今の状況を打ち明ける。


「なるほど、そういうことか・・・・・・」


「いい解決法はないかな?」


 冬樹は腕組みをしたあと、もっとも避けたい方法を提案してきた。他人の嫌がらせをする男に、ためになるアイデアは生み出すのは無理だ。


「俺の家に住まないか。一人暮らしをしているから、ちょっとくらいなら面倒を見れるぞ」


 ストーカーと同じところで生活する。思い浮かべるだけで、身震いすることとなった。


「あんたと生活なんて、絶対にお断りだよ」


「おまえに選択肢は残されているのか。家をガチで追い出されたら、炊き出しを食べる日々を送るぞ」


 炊き出しの4文字は効果てきめん。何も反論することはできなかった。


「俺と一緒に住みたいなら、いつでもいってこい。女王様のために、ありとあらゆる力を尽くそうと思っている」


 ストーカーと同居するなら、あの世に行ったほうがまし。いつもならそう思えるのに、今だけはそのように思えなかった。家を追い出される現実は、心に重くのしかかっている。

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