第44話 父からの電話
とうさんから電話を受け取った。
「勝、夜遅くにすまんな」
仕事で修羅場をくぐっているだけあって、細かい気配りにたけている。
「別に気にしていないから」
電話の向こうから、「オホン」という声が聞こえる。重要なことを話そうとしているのは、こちらにも伝わってくる。
「浮気をした挙句、パシリ扱いしている女に話をつけておいた。しばらくの辛抱だから、我慢してくれ」
若葉達を追い出したら、住むところを完全に失う。それにもかかわらず、しっかりと話をつけていく。ちょっとでも情を持っている人間には、なかなかできない行動である。
「とうさんは決断力がすごいな」
「面倒が大きくなる前に、ものごとを片付けておく。社会で生きるための鉄則だ。」
鉄は熱いうちに打て、父から大切にするようにいわれた言葉。これまではしっくりとこなかったけど、今ならわかるような気がする。
とうさんと話をしていると、愛ちゃんの甘い声が届いた。
「勝ちゃん、お風呂に入ろうよ」
「お風呂に入ろうよ」という声は、電話中のとうさんにも聞こえていた。
「愛ちゃんとラブラブみたいだな。邪魔するのはNGだから、とうさんはここまでにしておこう」
電話が完全に切れたあと、愛は通話していることに気づいた。
「勝ちゃん、誰と電話していたの?」
「とうさんだ」
「とうさん」の4文字を聞いた直後、愛は頭を大きく下げる。
「ごめんなさい。勝ちゃんの様子を確認してから、お風呂に誘えばよかったね」
「気にしなくてもいい。とうさんは分別はつけるくらいはできる」
「そっか。それならよかった・・・・・・」
愛はいつも以上に、柔らかい顔になった。
「勝ちゃんは年上、年下の彼女のどちらがいい?」
「気兼ねなく付き合える、同い年がいいと思っている」
年齢ははなれればはなれるほど、相手とうまくいかなくなりやすい。
「勝ちゃん、答えになっていないよ」
「年上、年下だけでいうなら、年下のほうがいい・・・・・・」
年下といった瞬間、愛の顔の筋肉は硬直したように見えた。
「愛ちゃん、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。気分転換したいから、一緒にお風呂に入りましょうね」
「わ。わかった・・・・・・・」
愛の頬の筋肉は固まったまま。どのようにすれば、彼女の固い部分をほぐしてあげられるのだろうか。
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