第47話 旦那とやり取り(美穂(若葉の母親)視点)

 一週間程度で退院できる予定だったけど、一カ月は入院するように伝えられた。慢性的な疲労から回復させるために、相当な期間を要するらしい。


 職場からは病気を理由に、自主退職を推奨されている。若葉を守っていく母親としては、簡単に吞むわけにはいかなかった。お金が切れたら、あの子とホームレス生活まっしぐら。


 ヨーグルトを食べていると、勝の父親が病室にやってきた。


「美穂、回復しているか」


「そ、それなりには・・・・・・」


 病室の中で二人の未来を案ずることが多く、ゆっくりと休めていない状態。症状は一日ごとに、悪くなっている感すらある。

 

「勝は二人きりの生活を嫌がり、従姉のところに居候しているんだ。浮気された挙句、ストーカー呼ばわりした女とは暮らせないらしい」


 勝を追い出して、一人でのうのうと生活しているとは。娘のダメっぷりは、雲の上をも凌駕している。


「君の娘を一人で住まわせるための家ではない。君の娘には話をつけて、出て行ってもらうことにした。こちらの条件をのむのであれば、大学までの学費を出すという話をした。判断については、君の娘に委ねる」


 大学の学費を負担してまで、娘を家から追い出そうとする。4人で生活する選択肢は、完全に消滅している。


「娘が応じないのであれば、離婚で決着させる。ライフラインとして生活保護を受けられるように話をつけておくから、あとは自分たちでやってくれ」


 結婚するまでは微塵も見せなかった、冷たすぎる旦那の顔。浮気で離婚歴のある女は、二度目も相手を間違えたのを完全に悟った。


「君の娘が浮気していなければ、幸せな家庭を築けたかもしれない。責任については、全面的に浮気女にあると思ってくれ」


 あんたは親失格。勝の父の発言は、そのように聞こえてならなかった。


「美穂の元夫については、いろいろなところで調査した。借金は少なく見積もっても、3億近くにのぼっている。あの男については、一生近づくのはやめたほうがいい。さもなくば、地獄を見ることになる」


 元夫が3億以上の借金をしているなんて。信じがたい話ではあるけど、あの男ならやりかねないと思えてならなかった。


「君はこれまで頑張りすぎた。他人のことは完全に忘れて、病院でしっかりと休め。さもなくば自らの命を落とすぞ」


 医師から何かを聞かされているのか。夫の真剣な目を見ていると、病気は進行しているのかと思えた。


「わ、わかった」


 冷たい男の心の中に、温かい感情を持っている。どちらが本当なのか、よくわからなかった。

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