第58話 正志が病室にやってきた(美穂編)

 若葉は家を追い出され、新しいところで生活する。自由気ままに生きてきた娘は、新しい環境に適応できるのか。問題を起こして、警察のお世話にならなければいいけど。


 美穂の病室に一人の男がやってきた。


「美穂、調子はどうだ?」


 正志であることに気づくのに、若干のタイムロスがあった。口ひげをそるだけで、印象はがらりと変わっている。


「まずまずといったところだよ」


 休む時間を確保できたこともあり、調子は回復傾向にある。


「君の娘については、すでに家を出た。勝のメンタルを考えると、同じ場所に置いておくのは不可能だ」


 若葉と顔を合わせないために、複数回にわたって従姉の家にお泊りしていた。浮気をした挙句、ストーカー呼ばわりした女と生活したくないのだろう。


「君の娘の素行を調査するために、家に小型のカメラをつけておいた。育てた親に対して、とんでもない暴言を吐いていたぞ。話を聞いただけで、身の毛がよだつのを感じた」  


 育て親に対して、暴言を吐き捨てる娘。人間として大切なものが、欠けてしまっている。


「君が聞きたいのであれば、録音したものを流そうと思っている。娘に対する愛情は、完膚なきまでに吹き飛ぶとレベルのひどさだ」


 若葉はどのような話をしていたのか。入院中は恐れ多くて、聞きたいとは思えなかった。


「娘のことを思いやるのは、母親として立派なことだ。ただ、ときには非情になることも知ったほうがいい。利用されるだけの人生は、何も得られるものがない」


「そ、そうだね・・・・・・」


「仕事が立て込んでいるから、すぐに職場に戻らなくてはならない。300人の従業員の未来は、俺にかかっているんだ」


 正志が大企業の社長だったとは。職業を詳しく聞いておらず、そのことについては知らなかった。

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