第57話 冬樹と交際スタート(若葉編)

「あんた、どうしてついてきたの?」


「女王様と一秒でも長く、一緒にいたいと思ったからでございます」


 ついてきていいといっていないのに、駅まで勝手についてくるなんて。信者さながらの男は、常識のかけらすら持ち合わせていなかった。


「私はついてこいといってないわよ。自分勝手なことはしないでほしいんだけど・・・・・・」


「どんなことがあっても、女王様に忠誠を誓わせていただきます」


 一方通行で話がまったく通じない男。こういうやつとかかわっていると、頭はどんどん痛くなってくる。


「女王様、お願いでございます。交際していただけないでしょうか?」


 冬樹の告白はこれで10回目。そこまで好きというなら、お試しで交際してやろうじゃないか。


「わかったわよ。遠距離恋愛でいいなら、つきあってあげてもいいわよ」


 遠くに引っ越してしまえば、勝との接点は完全に失われる。どんなに好きだとしても、思いを届けるのは難しい。


「女王様、ありがとうございます。忠実なるしもべとして、忠誠を誓わせていただきます」

 

 忠誠心を確かめるために、ある命令を行ってみる。


「忠実なるしもべ、ジュースをすぐに買ってこい」


「女王様、かしこまりました」


 人に命令することで得られる優越感。こちらについては悪い気分ではなかった。


「女王様、ジュースをお持ちしました」


 冬樹はオレンジジュースを購入。好みをリサーチしているところは、信者と呼ぶにふさわしい。どこで情報を得たのかは、よくわからないけれど・・・・・・。


「しもべ、ほめてつかわすぞ」


「女王様、ありがたきお言葉にございます」


「女王様ではなく、神様とおよびなさい」


「神様、かしこまりました・・・・・・」


 乗車すべき電車が到着。冬樹にそのことを伝えたのち、電車に乗り込んだ。


 冬樹はお金を持っていないのか、電車に乗ることはなかった。優越感に浸れなくなったことで、ちょっとした寂しさに包まれた。

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