第56話 最後の最後まで冬樹(若葉編)

 最寄り駅に向かっているとき、ストーカーと顔を合わせる。家を追い出されたときくらい、こいつとは無縁の生活を送れればいいのに。


 行く場所、行く場所でどうして、こいつと顔を合わせるのか。盗聴器をつけて、監視をしているのかなと思えた。冬樹は異常者なので、これくらいのことはやりかねない。


「女王様、どこに行かれるのでしょうか?」


 ドM、ド変態にもますます磨きがかかりつつある。最終形態に到達したら、どうなってしまうのだろうか。


「遠くに引っ越すんだよ。お金はあるから、あんたに心配される筋合いはない」 


 生活費、引っ越し代を合わせて、15万を手渡しされた。0が一個足りないけど、これくらいで我慢してやる。


「遠くに引っ越すのか?」


「ああ。そうだよ・・・・・・」


 新しい住居は電車、バスなどを乗り継いで20時間以上はかかる。いろいろな公共機関を利用することもあり、交通費だけで5万円以上の経費を要する。


「女王様、そばにずっといてくださいませ」


 前々から思っていたことを、本人に伝える。


「あんた、気色悪いわよ」


 冬樹に冷たくした直後、大量の涎をたらしていた。


「女王様、もっといってください。お願いします」


 おかあさんを殺害しようと目論んだ、父と遜色ない不気味さを持っている。私の周りにはどうして、変な奴ばっかりが集まってくるのだろう。


「五分だけでいいから、傍にいていただけないでしょうか。女王様のためだったら、何でもさせていただく所存でございます」


 電車の時間まで余裕はあるけど、こいつとはかかわりたくなかった。嘘の情報を伝えることにした。


「電車の時間がカツカツなの。あんたに付き合っている暇はない」


 冬樹はどういうわけか、背中を丸めた。


「女王様、最後のお願いです。頭を踏んづけていただけないでしょうか」


「そ、そんなことできるわけないでしょう」


「女王様、お願いします。背中を思いっきり踏んでくださいませ」


 本音は踏んづけたいけど、周囲の視線もある。ここでやるのは、得策とはいいがたい。

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