第54話 引っ越しまであと1日(若葉編)

 強制引っ越しの刑を受けるまで、残り一日に迫っていた。


 勝は従姉の家に泊まり続け、こちらには一度も戻ってこなかった。若葉が引っ越しを終えるまで、顔を合わせるつもりはないようだ。


 勝の父は出張中で、留守にしている。広い家の中にいるのは、一人だけという状況だ。


 夕食の準備をしようとする直前、玄関のチャイムが鳴らされる。電気ガスを止めたあと、来客対応を行った。


「宅配便です。サインをお願いします」


「わ、わかりました・・・・・・」


 受取のサインを終えると、20くらいの男は「ありがとうございます」と元気な声を出す。仕事に対して、やりがいを感じているのがわかった。


 20くらいの男と入れ替わるように、30くらいの女がやってきた。気苦労が多いのか、目にクマができていた。


「宅配便です。サインをお願いします」


「はい。わかりました・・・・・・」


 サインを終えたあと、荷物を受け取った。不愛想な女は荷物を渡すと、何もいわずにいなくなる。20代の男の対応とは、天と地ほどの差があった。


 30代の女と入れ替わるように、勝が家に戻ってくる。最後まで会えないと思っていただけに、大きな感動に包まれていた。


「若葉、引っ越しの準備は終わったか?」


「うん、もう終わったけど・・・・・・」


「それならよかった。電車、バスの乗り継ぎが多いから、時間確認もきっちりしておけよ」


「わ、わかったわよ」


 勝が部屋に戻ろうとする前に、声をかけることにした。


「勝に一つだけ聞いていい?」


「できるだけ手短に済ませてくれ。実の母に保険金をかけようともくろむ女なんて、まともに相手できるわけないだろ」


 保険金の話は極秘で進めたはず。情報はどこから漏れてしまったのだろうか。


「新しいところに引っ越したら、まともな心を養ったほうがいい。現状維持を続けていると、おまえの父みたいになりかねない」


「あれはジョークで・・・・・・」


 勝はいつにもなく、険しい顔になった。彼の父と似ていたこともあり、二歩ほど後ろに下がった。


「ジョークだとしても、絶対に笑えないから。他人を殺めようとする女なんて、そばにいられるわけないだろ。従妹の都合さえつけば、明日に帰宅していたはずだ」


 勝は一息入れた。


「おまえには大切にしてくれる人がいる。そいつだけは頼りになりそうだから、関係を続けたほうがいいぞ」


 勝は二階にあがっていく。追いかけたいはずなのに、足は一歩も動かなかった。

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