第35話 父から電話(若葉編)

 おかあさんは救急車で病室に運ばれていく。勝は一緒についていき、若葉はついていかなかった。


 入院することで、高額な治療費を請求される。パートを休んでしまえば、収入も滞る。これまで苦しかった生活は、さらに厳しくなるのは確定。明日からはもやしすら与えてもらえない生活を覚悟せねばなるまい。


 苦しい未来を想像していたとき、スマホの着信音が鳴った。相手を確認することなく、電話を取った。


「若葉か・・・・・・」


 電話から聞こえてきたのは、大量の酒を飲んだ時の父の声。一人になっても、べろんべろんになるまで飲酒する習慣は健在。根っからのアルコール中毒は、治療不可能のようだ。


 大量の酒を飲んだ父は、流暢に話を続ける。


「浮気相手に別れを告げられた。かあさんとやり直したいと思っているんだけど、話をしてくれないか」


 あんなに親しくしていたのに、浮気相手と破局するとは。若葉の前で見せていた姿は、虚像だったのかなと思えてきた。


 二人が再婚すれば、月10000円のおこづかいをもらえ、他の部分においてもリッチな生活を送れる。新しい家に引っ越しを余儀なくされた女にとって、いいことづくめであるといえる。


「私の方から、話をしてみるね。かあさんも生活に困っているみたいだし、喜んで応じてくれるはずだよ」


 生活に困窮しているときは、浮気相手であっても頼りにするはず。生死の境を迎えたときは、自身のプライドよりもお金を優先するのが自然だ。


「すぐに話をしてくれ。女と○○○しないと、頭がおかしくなっちまうぜ」


 女を性欲を満たすための道具と主張する。父のろくでなしっぷりは、さらにパワーアップしている。


「S○○、S○○、S○○させろ。S○○、S○○、S○○やらせろ」


 酒を飲んだことで、収拾のつかない状況になっている。アルコールが抜けるまでに、何かをしでかさないことを強く願うばかり。犯罪者の娘といわれ続けるのは、勘弁願いたい。


「かあさんはどうしているんだ」


「過労で倒れて、入院することになったよ」


「今すぐに多額の保険金をかけて、二人で山分けするのはどうだ。保険金で豪華な生活ができるぞ」


 保険金をかけて、取り分を分配する。若葉にとって悪い話ではなかった。


「すごくいいよ。かあさんに保険金をかけよう」


「そうだ、そうだ・・・・・・」


「どれくらいの保険金にするの?」


「10億くらいでどうだ。すぐに殺めれば、二人で山分けできる」


 利害が一致しているからか、いつにもなく話は盛り上がっていた。


「すごくいいね。おかあさんに保険金をかけよう」


「そうだ、そうだ、そうだ、そうだ・・・・・・」


 10億円をゲットして、一発逆転を叶える。二人の夢はすぐそこまで、近づいているのかもしれない。

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