第36話 お見舞いにこない若葉

 授業を終えたあと、おかあさんの見舞いをする。


「おかあさん、体はどうですか?」


 休みを取れたのか、顔色は幾分よくなっている。それでも、顔の青さは残ったままだ。一日、二日休んだくらいでは、回復するのは難しい。


「ちょっとはいいけど・・・・・・」


 若葉のおかあさんに対する恨みは0。彼女を助けられて、本当によかったと思っている。


 若葉のおかあさんは大きな溜息をつく。 


「母が倒れても、お見舞いにも来ないなんてね。あの子は完全にダメみたいだね」


 赤の他人は足を運んで、実の娘は放置状態。絶対にあってはならない状況といえる。


 おかあさんの病室に、父がやってくる。


「体は大丈夫か?」


「うん。検査は異常なしだって・・・・・・」


「体を壊すまで仕事せず、たまにはこちらを頼ってこい。金銭的な援助なら、それなりにできるから・・・・・・」

 

 父は仕事人間で、血の通っていない人間だと思っていた。それゆえ、金銭的援助といったのは意外だ。


「そ、そんなことは・・・・・・」


「ライフラインを作っておくのは重要だ。誰かに助けてもらってこそ、人間は生きられる」


「娘は取り返しのつかない失敗をしたんです。これ以上は迷惑をかけられません」


「君はここに来てから、よくやっている。娘の責任を背負い込むのはやめろ」

 父の発言は、勝の気持ちをそっくりそのまま代弁していた。あいつはどんな育て方をしていても、収拾のつけられない女となっていた。


「食べ物は食べられそうか。必要ならば、ヨーグルトなどを買ってくる」


「アイスとヨーグルトをお願いします」


 親子だけあって、食べ物の好みはそっくり。ほんのかすかだとしても、血を受け継いでいる。


「わかった。すぐにいってくる。君は安静にしていろ」

 

 父は青のネクタイを外したあと、売店に向かっていく。新しく結婚したい人を助けたい、その思いがにじみ出ていた。

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