第52話 神出鬼没(若葉編)

 ステーキを食べたあと、散歩に出かける。勝の父と同じ空間にいると、息が詰まりかねない。


 自販機の前を通り過ぎようとしたとき、学校でしつこく迫っている男と遭遇。アンラッキーな出来事に、頭は急にいたくなった。


「女王様・・・・・・」


 女王様と呼ばれ、背筋は冷たくなっていくのを感じた。


「女王様はやめて。印象がすごく悪いから・・・・・・」


 女王様には高飛車、高圧的、わがままといった、ネガティブな意味を含む。純粋、美しき心からはあまりに遠い。


「エゴイスティックで自分本位の女王様。下僕を好きなようにしてください」


 失礼な言葉を発し続ける男の左足を、右足で思いっきり踏んでやった。これで静まると予想したものの、そのとおりにはいかなかった。


「女王様に足を踏まれて、快感度マックスでございます。あの世に逝っても、後悔はありませんでございます」


 本命の評価は下がり続け、ストーカーの好感度はぐんぐんあがっていくとは。恋愛の神様はむごいことをする。


 つきまといの評価をどうすれば下げられるのか。そのようなことを考えていると、男からある提案をなされた。


「今度の土曜日に追い出されるんだろ。俺と一緒に生活すれば、ホームレスから解放されるぞ」


 弱いところにつけこんで、ものごとを有利に進めようとする。卑怯なタイプの男は、なるべくおつきあいしたくない。


「自宅を出ていくことで、大学卒業まで面倒を見るといわれているの。あんたと一緒になるくらいなら、そちらを選んだほうが1億倍ましだわ」


 大学在籍中は勝の父のお金を利用するだけ利用して、大学卒業後はお金を貢いでくれる男と一緒になる。他人に苦労をさせて、自分は楽をしまくってやる。奴隷さながらに動くコマを絶対に見つけてやるんだから。バラ色の人生は、他人を利用することで成立する。


「金を餌にして、おまえを追い出そうとしているだけだ。赤の他人なんて信用するのはNG」


 片方は建前上の家族、もう片方は完全に赤の他人。あえて信頼するとすれば、前者ではなかろうか。


「女王様のためなら、命を捧げられる。絶対に裏切らないから、一生ついてきてほしい」


 変態の好感度をほんのちょっぴり、ほんのちょっぴりでいいから、他の男にも配分できればいいのに。天にどれだけ願っても、届くことはなさそうだ。

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