第51話 肉よりも住む権利が欲しい(若葉編)
勝は二日連続で宿泊するため、本日も家には戻ってこなかった。新しい住居に引っ越すまで、ずっとこうしているつもりなのだろうか。お別れの挨拶くらいは、いってほしいところ。
若葉の父親がやってくる。最近ではこの顔を見るだけで、息切れしそうになることもしばしばだ。
「ご飯を食べるぞ」
「はい、わかりました・・・・・・」
テーブルに並んでいるのは、霜降りステーキ。肉を見るだけで、口中はよだれだらけになった。
「これを食べてもいいんですか?」
「ああ。好きなだけ食べていい」
普段なら大喜びするところだけど、今回ばかりは気分をあげられなかった。ご馳走を食べるよりも、家にずっと住み続ける権利を欲しい。大好きな人のそばに居続けたい。
「冷めるとおいしくないから、すぐに食べ始めろ」
「わ、わかりました・・・・・・」
ナイフで一口サイズに切ったあと、霜降りステーキを口に運んだ。
「どうだ。おいしいか・・・・・・」
「はい、すごくおいしいです」
再婚前は絶対に食べられなかった上質な肉。母が再婚した男は、相当な資産家だった。
「そうか。それなら、これも食べておけ」
勝の父は自分のステーキを、若葉の目の前に置いた。
「4人の一家団欒を楽しみにしていたんだけど、叶えられずに終わる。こちらとしては、ものすごく寂しい」
家を追い出す人間として、堂々としていればいいのに。こういう発言は、人間の感情を逆撫でするだけだ。
食べられるうちに食べておけ。自らの信念にのっとって、霜降りステーキを無我夢中で食べ続ける。
5枚のステーキを食べ終えたあとに、おなかをさすってみる。いつもと比べて、ほんのちょっぴりだけ肉をつけられた。
勝の父は、自らのグラスにワインを注ぐ。色を見ただけで、すっごくおいしそうに感じられた。
「どんなワインなんですか?」
「ロマネコンティーだ」
「ロ・・・マ・・・ネコ・・・・・・」
ワインに疎い人であっても、名前くらいは聴いたことがある。フランスの最高級ワインで、一本で100万円以上はする代物だ。
水を飲むかのように、ロマネコンティーを喉に流し込む。100万円はあっという間に、勝の父親の胃袋に吸収された。
勝と仲たがいしていなければ、裕福な家庭の娘になれたのに。たった一度の浮気で逃した魚は、あまりにも大きかった。
もう二度と浮気しないので、永住する権利をください。神様にそのようにお願いするも、反応は何も帰ってこなかった。
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