第42話 勝の父からの話(若葉編)
「ただいま・・・・・・」
仕事で一週間は外出するといっていたのに、五日間でこちらに戻ってきた。仕事は想定していたよりも、早く終わったのか。
「お、おかえりなさい」
最初に会ったときから、勝の父に苦手意識を持っている。とっつきにくいうえ、人間の感情は死んでいる。いろいろな人間と接してきたけど、一番不得手な部類に分類される。
「勝、ご飯を一緒に食べよう」
勝は外出しているため、呼びかけても反応するはずはない。そのことを伝えようとするも、口を開けなかった。事実を伝えたら、すべては弾けてしまいそうだ。
「勝、勝、どこにいったんだ・・・・・・」
勝の父は捜査するかのように、家の中をくまなく探している。警察の服装をしていたら、完全に刑事そのものだ。
探索を終えた父親は、こちらに戻ってくる。顔を合わせるだけなのに、喉の水分は完全に奪われていた。
「勝はどうしたんだ?」
極度の緊張からか、返答はかみかみとなっていた。
「従姉の家に外泊しているみたいです」
勝の父はうーんと唸った。
「浮気をした挙句、パシリ扱いした女をとことん嫌っているのか。普段は温厚な息子をここまで怒らせるなんて、君は人間失格レベルの女と断言していい」
人間失格といわれ、繊細なハートは深く傷ついた。
「おかあさんには既に話をしたけど、一人暮らしをやってくれないか。勝を育てる親として、君をここに置いておくのは難しい」
勝の父親からの完全死刑宣告を下された。居候している女は、逃げ場を完全に失った。
「一人暮らしに応じるなら、大学の学費などを負担するのを約束する。君は大学志望みたいだし、悪い話ではないだろ」
大学を餌にして、一人暮らしに応じさせようとする父親。お金で解決できることは、すべてお金で終わらせる男らしい。
勝の父親は腕組みをする。
「こちらが譲歩できるのはここまでだ。首を縦に振らないなら、君のおかあさんとの婚約関係を解消する。すぐに仕事に就くのは難しそうだから、ホームレスになるのを覚悟してくれたまえ」
「はい、わかりました・・・・・・」
ホームレスになれば、高校も諦めることになる。すべてを失う恐怖からか、思考回路は完全にストップした。
「君のおとうさんについては、簡単に調査をしているところだ。詳細はまだあがっていないけど、酒、女、ギャンブルで1億以上の借金を抱えている。再婚、同じ場所で生活した場合、借金地獄になるのを覚悟しておけ」
「父が1億以上の借金・・・・・・」
父が1億以上の借金。信じたくはないけど、勝の父の目を見ていると真実にしか思えなかった。
「1億以上の借金は、離婚してから作ったらしい。わずかな期間で、それだけの金額を借金するなんて愚の骨頂だ。浮気相手、キャバクラ、キャンブルで作るなんて。君と同じでどうしようもない奴だ」
君と同じというところを、あえて強調するなんて。一人のか弱い女性に対する言葉としてありえない。
「仕事があるから、そちらに戻る。今回の話については、君のおかあさんにもしておくから」
カウントダウンの音が刻一刻と迫っている。どうあがいても、良い解決法は導き出せそうになかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます