第38話 若葉と大喧嘩

「おかあさんの見舞いにどうして来なかったんだ」


 いつもと比べて、五倍、十倍は声を荒げていた。そのこともあって、自分の声がうるさいと思えるほどだった。


 若葉は素直に首をふらず、反論してきた。


「あんたにどうして、そんなことをいわれなくちゃいけないのよ。見舞いに行く、見舞いに行かないは私が決めることだよ」


 育ててくれた親に対する、感謝の心を持ちあわせていないとは。浮気女のダメっぷりは、とどまるところを知らない。


「おかあさんは寂しがっていたぞ」


 若葉は全力で否定する。


「そ、それは絶対に嘘だよ。おかあさんの願いはただ一つ、私に死んでほしいと思っているんだ」


 頬を叩きたくなるも、必死に我慢する。感情をコントロールできたのは、自分でも奇跡だと思えた。


「おまえってやつは・・・・・・」


 若葉はさらに態度を硬化させた。


「私はどんなことがあっても、おかあさんの見舞いにはいかないから。あんたがいきたいなら、止めることはしないけど・・・・・・」


 二股女によくなってほしいとは思わないけど、親から受けた感謝だけは感じ取れる人間になってほしい。虐待するような親は論外だけど、他は親に育てられるからこそ、子供は生きる権利を得られる。


「用事はそれだけ。やることがあるから、話はここでおしまいね」


 若葉は自室にひきこもる。声をかけても無駄そうなので、自分の部屋に向かった。


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