第29話 何も喉を通りそうになかった
あいつは浮気をしたうえ、ストーカーと罵っていた。どちらかだけでもアウトなのに、2つも過ちを犯している。正常な思考の持ち主は、やり直せるなどという発想に至らないはず。
若葉に告白された直後から、食欲を完全に失っていた。夕食については、何も喉を通りそうになかった。無理に押し込んだなら、すべてを逆流させる自信があった。
テレビをつけようとしていると、部屋をノックされる音がした。ゆったりとしているので、若葉のおかあさんであると予想はついた。若葉はドアをノックするとき、壊れるのではないかというくらいの大きい音を出す。音量調節をする発想は、頭から消えている。
「勝君、ちょっとだけ話しがあるんだけど・・・・・・」
元気のない声で、若葉の母に入室を促す。あいつの告白は食欲だけでなく、声の力まで奪った。
「どうぞ、入ってください」
若葉の母は部屋に入るなり、深々と頭を下げる。
「浮気をしたうえ、ストーカーと罵ったバカ娘が失礼なことをしました。母親として深くお詫び申し上げます」
若葉本人は謝罪せず、母親に肩代わりをさせる。裏金問題で責任だけを擦り付けられる、秘書が頭に思い浮かんだ。
「あの子を甘やかしすぎたために、取り返しのつかない子供になってしまいました。もっと厳しくしておけば・・・・・・」
話をしようとしているところに、浮気女の心無い言葉が届けられた。
「かあさん、ご飯はまだ。おなかペコペコなんだけど・・・・・・」
相手の都合を考えず、自分の要求ばかりを押し付ける。脳みそを中から取り出して、すべてを新品と交換したほうがいい。取り替えたとしても、数日もしたら元通りに腐ってしまうかもしれないけど・・・・・・。
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