第10話 彼女を作ることへのトラウマ

 初めての彼女と破局してから、早くも数年が経過した。 元カノに「ストーカー」呼ばわりされたときのことは、鮮明に覚えている。新しい彼女を作っても、結婚できてもトラウマになりえるレベル。


 若葉以上はガチでクズだったけど、上には上がいるのもれっきとした事実。そのような女と交際したら、再起不能になりかねない。


 再起不能クラスのバッドエンドを迎えることもあるのに、どうして人間は恋をするのか。オスとメスとしての反応を示しているから、一人では寂しいから、誰かに守ってほしいから、恋をする優越感に浸りたいから、恋愛に依存しているから、○○○をしたいから、動機についてはいろいろとあるだろうけど、本能の一種に分類される。


 浮気をした元カノは、40℃の高熱で療養中。放置すれば苦しみを倍増させられ、 目の前で復讐できる。プライドをズタズタに切り裂かれ、女不信に陥った男に、倍返しをする千載一遇のチャンスが訪れている。それにもかかわらず、手厚い看病をしようとしている。どうしてこのような行動を取っているのか、理解できなかった。しいて理由をあげるとするならば、生きることによる苦しみを与えるためかな。


 人間は死なせてしまったら、苦しみを与える機会を永久的に失う。生存させながらも、生きるための希望をじわじわと吸っていき、最後にはマイナス∞までもっていく。復讐のやり方としては、こちらの方が総合ダメージは大きくなる。不倫をされた男は、そのようなことを考えていた。


 雑炊に視線を送る。痰を大量に入れて、嫌がらせをするのはどうか。大嫌いな男のつばの入ったご飯など、とても食べられたものではない。


 スプーンをあらかじめなめておくのも有効。大嫌いの男のつばがついたスプーンを、たっぷりと口の中に含ませてやる。想像するだけで、心はおおいに踊ることとなった。


 他にもいろいろな案は浮かぶも、実行するのはやめておこうと思った。嫌がらせをするなら、目の前でやってやればいい。堂々と傷つけてこそ、自尊心のアップにつなげられる。


 若葉の部屋の前についた。湯気の立っていた雑炊は、少しだけ冷たくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る