第19話 わがまま、浮気女を好きになる男がいるなんて
数学の教科書を取りに戻ったために、一時限目に間に合わなかった。
「勝、遅刻は珍しいな。初めてじゃないか」
厳密には二回目である。一年前に三〇秒だけ、学校に来るのが遅れた。潔癖症の教師は許さず、遅刻扱いとされた。三〇秒くらい、大目に見てくれてもいいのに。
「ああ。いろいろとあったんだ・・・・・・」
若葉のことは極力伏せておく。同居していると知られたら、いろいろと面倒なことになるのは確実だ。
「浮気した元カノは欠席みたいだな。嫌な女を忘れられて、快適な学校生活を送れるのはラッキーだぞ」
「ああ。そうだな」
本来なら天国だけど、浮気をした女は自宅に住みついている。我が家にたどり着いたら、嫌になるほど顔を合わせる。安らげるはずの自宅は、地獄へと姿を変えた。
「おまえにはいえないけど、あいつを狙っているんだ。刺々しいところが、ドストライクなんだ」
人間の嗜好は千差万別。ああいう女を好きになる思考の男は、一定数は存在するらしい。
本性を知ったあとも、同じ空間で過ごせるのかは未知数。世界一心の広い男だとしても、殺意が湧くのは確実なレベル。
冬樹は握りこぶしに力を籠める。
「若葉にアタックをかけて、おつきあいをスタートさせるぞ」
冬樹の瞳は、小学生さながらにきらきらとしていた。相手を変えたほうがいい、という適切なアドバイスは耳に届きそうになかった。
「あいつは人使いも荒いし、他人を平気で裏切る。そんな女と交際したいのか?」
「ああ。俺はあいつがいい」
そこまでいうのなら、素直に応援してやった方がいい。他人の人生に責任を取ってやるほど、お人よしではない。
「それなら、素直に応援するよ」
「絶対に成功させてやる。おまえも応援してくれ」
二人がおつきあいを始めたら、家の中で会う時間を減らせるかも。冬樹の告白成功を本気で願っていた。
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