第16話 手厚い看病と棘だらけの言葉(若葉編)
時刻を確認すると、夕方の五時を回っていた。
若葉の部屋がノックされた。トントン、トントン・・・・・・。
「若葉、入るぞ」
「どうぞ。入っていいわよ」
勝は四重マスク、フェイスガードをつけている。厳重装備によって、顔は完全に隠されている。せっかくのイケメンを見られなくて、ものすごく残念な気分になった。
「若葉、おなかはすいていないか?」
「睡眠中にカロリーを大量消耗したみたい。勝の作った雑炊を、おなかいっぱいになるまで食べたい」
大好きな人の作った雑炊なら、あと10杯くらいは食べる自信がある。愛は胃袋を完全にマヒさせる力を持つ。
雑炊だけでなく、冷たいものも食べたい。看病をする男に、追加リクエストをする。
「勝、アイスクリームも食べたい」
「わかった。とってくる」
「ヨーグルト、氷のたっぷり入った水、頭に当てるタオルもあればいいんだけど・・・・・・」
勝は何を思ったのか、冷たい視線を向けてくる。
「交際していたときから、時は止まったままみたいだな。おまえは欲望ばかりを押し付けて、他人のことを一ミリも考えなかった。そん・・・・・・」
続きは聞かなくても、なんとなく伝わってくる。「そんな性格をしているから、おまえは浮気をするんだ」といおうとしている。
「今日だけは我慢してやる。熱が回復したあとに同じことをしたら、堪忍袋の緒は完全崩壊だ。とうさんに相談して、家から消してもらう」
数日で家を追い出される。浮気の代償はあまりにも重かった。
「わ。わかったわよ」
勝に優しくされるなら、一週間連続で高熱を出すのもあり。40度の熱を出したばかりの女は、おかしいと思える考えに支配されようとしていた。
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