第5話 厳しい現実(若葉編)
母と二人で夕食をとる。勝は自分の部屋でご飯を食べている。
「本当は4人で食べたかったけど・・・・・・」
母はみそ汁を啜ったあと、冷たい視線を向けてきた。
「家をすぐに追い出されないだけ、感謝しなさい。あんたのやったことのせいで、同居生活の一日目から修羅場を迎えているのよ」
母の瞳は死んでいる。未来に対する絶望を感じているらしい。
「家庭環境が劣悪になったら、追い出されることも覚悟しないといけないね.」
喉にたまっていた唾を一気に飲み込んだ。
「お、追い出される・・・・・・」
「結婚したとはいっても、所詮は赤の他人。関係が悪くなったら、それまででしょう」
おかあさんが離婚したとき、翌日に家を追い出された。婚姻関係を解消した時点で、赤の他人に成りさがる。
「そ、そうだけど・・・・・・」
大好きな人と過ごす権利を放棄する。せっかくの大チャンスを手放すのは、絶対に避けたい状況といえる。
「勝さんのことを知っていたら、再婚をお断りしていた。相手方に迷惑をかけるようなことはできないからね」
浮気したことをどうして隠していたの、母の目はそのように訴えかけてくる。若葉は気まずくなって、視線をそらした。
「高校を卒業したら、就職するようにしてね。大学の学費を賄えるほど、私は裕福ではないから・・・・・・」
「わ、わかった」
高校を卒業して、すぐに働くことを余儀なくされる。大学でバカンスしたい女にとっては、厳しい現実をつきつけられた。
「高校卒業まで、ここにいられるといいね・・・・・・」
二人で食事をしていると、勝の父がやってきた。母はそれに気づくと、頭を深々と下げる。
「バカ娘の行いによって、不快な思いをさせてしまいました。母として深くお詫びいたします」
母に倣って、頭を深々と下げる。
「勝さんには失礼なことをしました。罪を償えるのかはわからないけど、自分なりにやっていきたいと思います」
勝の父は五秒ほど、言葉を発さなかった。こちらにとって、人生で一番長く感じられた。
「四人で住めるように力は尽くすけど、息子の意向を尊重するのは親の役目。どうしても無理だというなら、別居を視野に入れることになる。そのことを頭に入れておいてください」
背中から大量の冷や汗が流れる。
「べ、べっ・・・・きょ・・・・・・」
勝の父から告げられた別居の四文字は、心の中に重くのしかかる。
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