第22話 勝の雑炊を食べたい(若葉編)

 四重マスク、フェイスガードで完全防備した男が近づいてくる。


「若葉、雑炊ができたぞ」


 野菜たっぷりの雑炊を見た瞬間、誰によって作られたものなのかを察する。期待が大きかったぶん、落差も大きかった。


「若葉のおかあさんに作ってもらった。栄養もたっぷりだから、たくさん食べろよ」


 母の雑炊ではなく、勝の雑炊を食べたかった。好きな人の雑炊は、体だけでなく、心のエネルギーにもなる。


「栄養をきっちりとって、風邪を早く治すようにしろよ」


「わ、わかっているわよ」


 勝はにたび、頭に手を当ててくる。


「熱はまだまだありそうだ。一週間くらいは、安静にする必要があるな」


「あんたは意外に大胆だね。私は仮にも女の子なんだよ」


「ご、ごめん。おとこ・・・・・・」


 男扱いされたことで、富士山さながらに噴火することとなった。


「な、なんですって・・・・・・」


「ごめん、ついつい・・・・・・」


「男扱いされるのは、裸を見られるよりも許せないんだけど・・・・・・」


 大きな声を出したために、体からしんどさを感じる。熱がさがるまでは、大人しくしておこう。


 母の作った雑炊を食べる。テンションが下がっていたために、おいしいと感じることはなかった。


 半分くらい食べ進めたところで、おかあさんが部屋に入ってくる。


「若葉、雑炊はしっかりと食べた?」


「そ、それなりには・・・・・・」

 

 おかあさんの視線は、雑炊へと向けられる。


「野菜をしっかり食べないと、免疫力は弱ったままだよ」


「わかったわよ。食べるわよ」


 余った雑炊を一口食べるも、喉を通っていかなかった。39℃の熱を出した女が食べるには、愛の力を必要とするらしい。 

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