第8話 毒殺が脳裏をかすめてしまった

 自分を捨てた女を、看病する羽目になるなんて。胸の内におおいなるやるせなさが募った。あいつの面倒を見るくらいなら、名前、顔も知らない赤の他人の病気を治すほうがずっとまし。


 40度の熱を出した女を、放置するのはNG。サポートするつもりはなくとも、やるべきことはやっていく必要がある。取り返しのつかない事態になったら、悪いレッテルを張られ続けることになる。


 雑炊はお湯を沸かしたあとに、ご飯を適当に鍋に入れて煮るだけ。調理スキル0の男にも、問題なく作れるはず。


 鍋に適当に水を入れたあと、電気のガスをつける。数分ほど待てば、水はお湯へと変化する。


 お湯が沸いてきたあと、茶碗一杯程度の白米を投入。40度の高熱だとしても、これくらいは食べられるはず。おおめに作るくらいでちょうどいい。


 ご飯が煮えたところで、塩を投入する。若葉は塩分多めといっていたので、たっぷりと入れておこう。

 

 調理に疎すぎる男は、塩分の加減をわかっていなかった。茶碗一杯の米に対して、スプーンで大匙2杯(30グラム)程度の塩を投入。3杯目を入れようと思ったものの、さすがに多すぎるかなと思った。


「塩をこれくらい入れれば、しっかりとした味がついているだろ。若葉は塩たっぷりがいいといっていたからな」


 雑炊を軽く混ぜたあと、すぐに火を止める。器に適当に盛り付け、お盆の上にのせた。


「料理素人にしては、見た目はばっちりだ」


 雑炊の中に毒を入れてやろうか。犯罪まがいのことが頭に浮かぶも、実行に至ることはなかった。


*次回は別れた回想シーンです。(主人公視点なので、事実とは異なる部分もあるかもしれません)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る