第13話 無味雑炊(若葉編)

 殺人クラスの雑炊を食べたことで、喉はカラカラになっていた。本能に促されるままに、ポカリスエットを飲み進めていく。


「塩分0の健康雑炊を作ってきたぞ」


 ご飯の量は先ほどの半分くらい。炊飯器の中のご飯は底をついたのを察した。

   

 見た目はしょっぱすぎる雑炊と全く同じ。心の中に先ほどの恐怖が蘇った。


「勝、食べさせてくれる?」


 勝は室内に響き渡るほどの大きな溜息をつく。


「わかった。食べさせてやるよ」


 勝は新しいスプーンを使い、雑炊を食べさせてくれた。できることなら、間接キスをしたスプーンがよかった。


 塩分の含まれていない雑炊は、味をまったく感じなかった。塩分0のいいつけを、忠実に守っている。


「これでは食べにくいから、塩を取ってきてほしんだけど・・・・・・」


 勝は大きな溜息をついた。


「わかったよ。とってきてやるよ」


「40度の熱を出しているんだよ。今日くらいは大切にしてくれても・・・・・・」


 若葉が最後までいう前に、勝は部屋からいなくなっていた。


 レジ袋の下の方に、アイスクリームが入っている。冷凍庫の中に入れなければ、ドロドロに溶けてしまいかねない。


「塩を取ってきたぞ」


「あ、ありがとう・・・・・・」


 若葉は袋の中にある、アイスクリームを指さす。


「アイス、解けるわよ。放置しといていいの?」


「冷凍庫の中に入れるのを忘れたみたいだ。すぐに入れてくるから、雑炊を食べててくれ」


 交際していたときから、天然は変わっていなかった。この人はどこか抜けているところがある。


「わ、わかった・・・・・・」

 

 雑炊に塩をかける。塩分をたっぷり取りたいので、少しだけ多めにする。


「塩分はそれくらいでいいのか。大匙二杯くらいは、入れないといけないと思っていた」


 お茶碗一杯の米に、30グラムの塩を投入していた。調味料の知識のなさに、おおいに愕然とする 


「あんたは本当に料理しないんだね」


「ああ。お湯を沸かすくらいだな。自慢じゃないけど、卵を割ったことすらない」


「ご飯はどうしていたの?」


「おかあさんが生きていたころは、母に全部を任せていた。あの世に逝ってからは、出前もしくはインスタント食品を中心に食べていた」


 勝の母が生きていたなら、同じ部屋で生活する機会は得られていなかった。勝のおかあさん、あの世に逝ってくれてありがとう。心から感謝させていただきます。


 勝は不健康な食事を続けているのに、理想の肌色をしている。女性からすれば、とってもずるいと思える。


 勝はポカリスエットを確認する。


「ポカリスエットはしっかり飲んでいるようだな。それだけ飲めるようだったら、数日で熱も下がるだろ。糖分ばかりとると体に悪いから、よく冷えた水も用意しておいたほうがいいな」


「あ、ありがとう・・・・・・」


「浮気女に感謝されても、感動はまったく感じない」


 40度の熱を出したときくらいは、浮気を持ち出さないでほしい。若葉の心の中の願いは届きそうになかった。


「他にいるものはあるか・・・・・・」


「パンッ・・・・・・、パンを食べたいんだけど・・・・・・」


 パンツを思い浮かべたために、危うくいいかけてしまった。運がいいことに、気づかれてはいなかった。


「病気なんだから、パンはやめとけ・・・・・・」


「そ、そうだね・・・・・・」


 勝が部屋を出たあと、ふぅーと大きな息を吐いた。性癖だけは、絶対に隠し通さねばなるまい。決意を新たに、対応していこうと思った。

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