第20話 【ゆあ&あゆ】 享年5歳 その参
「あゆちゃん・・・今日は何して遊ぼうか?」
「ゆあちゃん・・・おままごとしようよ」
お母さんが弟のお世話で忙しくなって、あたしたちはお手伝いがない時はおままごとをして遊んで居た。
言葉はだいぶしゃべれるようになって、お母さんやお父さんともある程度会話が出来るようになってきた。
「ねぇ、おかあさん今日もあゆちゃんとおままごとして遊んだんだよ」と言うと、
「あら、仲良く遊んだんだね、幸助がもう少し大きくなったら一緒に遊んであげてね」とお母さんも嬉しそうにしてくれた。
弟の幸助が最近座ってごはんを食べるようになって、お父さんも幸助を抱っこしたりしてみんながいっぱい笑顔で過ごす日々が続いてあたしたちも嬉しかった。
お父さんはお母さんが幸助にかかりきりになると、あたしたちのおままごと中に声をかけてくるようになった。
お父さんが声をかけてきたらおままごとをやめて、お勉強の時間が始まる。
あたしたちはもうすぐまたケーキが食べられるお誕生日が近づいて居て、
「お勉強を頑張らないとケーキは買ってこないからなー」とお父さんに言われたから、ひらがなの練習から始まったお勉強の時間を今までの訓練と同じように頑張る事に決めた。
「おえかきみたいなものだよね?・・・あゆちゃん」
「クレヨンで書くからそうだとおもうよ・・・ゆあちゃん」
カレンダーの裏にお父さんが書いたひらがなを見て真似して書くことで、お父さんは褒めてくれたから、あたしたちは褒めてほしくてお勉強の時間を頑張って居た。
お母さんにも書けたものを見せては「エライエライ」と褒めてもらった。
だいたいのひらがなを覚えて書けるようになった頃、あたしたちはご褒美として、2歳のお誕生日ケーキでお祝いをしてもらった。
「やっぱりケーキは甘くて嬉しくて美味しいね・・・あゆちゃん」
「もっといっぱいお勉強頑張ったら来年も食べられるね・・・ゆあちゃん」
お父さんは幸助が抱っこしても泣かないから、幸助と遊ぶ時はとても嬉しそうだった。
「お姉ちゃんは弟の見本にならなきゃダメだからもっと字もきれいに書けるように練習しろ」とお父さんに言われて、
ひらがなを使って毎日日記を書くようにと日記帳を買ってもらった。
初めての日記を書くとお父さんに見せに行った。
「おとうさん日記書けました」
その日記を見たお父さんは顔から笑みが消えて、あたしたちを叩いた。
「升目から字がはみ出てるだろう・・・何のための升目だと思ってるんだ」
それを見てお母さんが「やめてください!頑張って書いてるじゃないですか」
と、言ってくれたけど、お父さんはそう言うお母さんを叩いて、
「お前は子供が将来学校に行ってバカにされてもいいのか!?」と言った。
お母さんは「ごめんなさい」と言うと幸助のところに戻ってしまった。
「いいか?明日この升目をはみ出して日記を書いたら今度は二回叩くからな!」と言われて、
升目をはみ出さないように小さく日記を書くことを頑張った。
なんとかはみ出さずに書くことが出来て、お父さんは次のお勉強を追加し始めた。
「今度は数字を数える勉強だ。お風呂で1から100まで教えてやる」と言ってお風呂の中で数え方を教えてくれた。
「明日からは自分で1から100まで数えるんだぞ」と言われたから、あたしたちは日記の他に数字を覚えて言えるようになるまでお風呂から出られないようになった。
「1・2・3・5・6・7・・・」
「ダメやり直し」とお父さんは間違えると1からまた数えるようにと言うので、あたしたちは毎日お風呂で倒れてお母さんが助けてくれた。
「このままじゃ死んでしまいます!」とお父さんに言うお母さんの髪の毛を引っ張って、叩きお母さんは泣いてお願いしていた。
お母さんのお手伝いをして、日記を書いて、数字を数える事を頑張ればお母さんも叩かれなくて済む。
「あゆちゃん・・・1から100は難しいね」
「ゆあちゃん・・・でもお母さんのためにも頑張ろう」
お父さんは昼間は居ないけど、居ない間にあたしたちは数字を一生懸命数えて、お風呂の中でやっと1から100まで数える事が出来るようになった。
幸助が立って歩けるようになった頃、幸助のお誕生日を祝いにおじいちゃんとおばあちゃんのおうちにみんなでお泊りに行った。
お父さんはおじいちゃんとおばあちゃんにとてもにこやかにあたしたちや幸助のことを話していた。
おじいちゃんとおばあちゃんはとっても優しくてケーキもおやつもいっぱいくれて可愛がってくれた。
幸助も1歳になって、「じーじ」「ばーば」と話せるようになったのでみんなが笑顔の時間が増えた。
おうちに帰るとお父さんが「ゆあ、お前おやつ食べ過ぎたから明日から一日一食だぞ」と言った。
冗談だと思って居た。
「おい、お前ゆあに朝昼おやつも与えるなよ。太ったら学校で虐められるからな」とお母さんに言うまでは。
それからごはんを食べていいのはお父さんがいる夜だけになった。
お父さんがおうちに居る日でも、お父さんやお母さんや幸助は朝ごはんとお昼ごはんとおやつに、夜ごはんを食べていたけど、お母さんはお父さんに怒られないように従って、夜ごはんを沢山くれた。
「ありがとうございますおかあさん」と言ってごはんを食べると、お母さんはすぐに居なくなってしまった。
幼稚園に行くようになると、幼稚園のお友達が色んな話をしてくれて、それをおうちに帰って話すようになった。
日記にも書いた。幼稚園の先生は優しくてあたしたちに、
「お母さんとお父さんは優しい?ごはんは食べてる?」と聞いてくれるから、
「ちゃんと一日一回ごはんを食べてます」と答えたからか、ある日突然あたしたちだけがおうちじゃないところに連れていかれてしまった。
そこでは「お父さんとお母さんはゆあちゃんを叩いたりする?」と聞かれたから、
「おとうさんはあたしたちとおかあさんを叩きます」と答えるとしばらくおうちに帰してもらえないことが決まった。
長い期間その場所で家族と離れ離れで暮らして居た頃、一匹の野良猫に出会った。
野良猫はそこによく遊びに来て、あたしたちと一緒にお昼寝をすることもあった。
「あゆちゃん・・・この子の名前つけようよ」
「ゆあちゃん・・・なんて名前にしようか?」
特に思い浮かばなくて「にゃんこ」と呼ぶことにした。
にゃんこは家族に会えないあたしたちの寂しさを少し埋めてくれた。
ある日撫でようとしたらにゃんこは指をカプっと噛んであたしたちは血を見て泣いてしまった。
にゃんこはすぐに居なくなっちゃったけど、次の日噛んだ指をペロペロと舐めてくれた。
仲直りできたみたい。
そして、おうちに帰っていいと言われてお父さんが迎えに来た。
久しぶりのおうちでは、お母さんは朝起こしに来るとき以外はあたしたちと話してはいけないルールが出来ていた。
幸助とお父さんとお母さんがお出かけする時も、あたしたちはお留守番でお勉強をするルールが出来ていた。
幼稚園には行かないルールも出来ていた。
ごはんは一日一回もない日が多かった。
「ねぇ、ゆあちゃん今日も一緒だからね」
「うん、あゆちゃんが居れば大丈夫」
「お母さんがそろそろお部屋に来て起きなさいって言う頃だね」
「その前におっきしてないといけないから起きよう」
眠い目を擦りながら起きるとお母さんは起きている事を確認してすぐに居なくなってしまう。
いつの間にか幸助は大きくなって、あたしたちももうすぐ小学校に行くような歳になっていた。
久しぶりに外に出してもらえたのは大好きなおじいちゃんとおばあちゃんがランドセルを買ってくれたから、「ありがとうございます」と言いに行った日だった。
「沢山食べな」とごはんをいっぱい食べる事ができた。
おうちに帰ってきたら、お父さんはあたしたちが居なかった間に出来なかったお勉強をするようにと沢山のドリルを買ってくれた。
全然わからないと「何でこんな簡単な問題も出来ないんだ」と蹴ったり叩いたりされるから、頑張って分かるようにお勉強をしたけど、何もわからない。
お母さんは全然助けてくれなくなって、お勉強が出来るまで食べ物は貰えないルールが出来た。
あんなに最初は吐き出すほど苦手だった野菜をお父さんが居ない間に冷蔵庫から盗んで食べたのがバレて、
「悪いことをしたらすぐにごめんなさいって言えって教えただろう!」と叩かれて、蹴られて、お父さんたちが出かける日には狭い場所に裸で閉じ込められて家族が帰ってくるのを待っていた。
「ねぇ・・・あゆちゃん・・・どこ?」
随分前からあゆちゃんからの返事がなくなってしまった。
意識が遠のきそうになった頃、遠くでお父さんの声が聞こえた。
「なんだこの汚い猫!」お父さんは玄関先に居た猫を蹴り続け殺してしまったようだ。
にゃんこは元気かな・・・ケーキ食べたいな・・・お母さんにギュって抱きしめられたいな・・・そう思いながらあたしは眠りについてしまった。
永い永い眠りに。
次に目が覚めた時にあたしの目の前にはあゆちゃんとにゃんことてるてる坊主が二つ居た。
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