第19話 【ゆあ&あゆ】 享年5歳 その弐
「ねぇ、あゆちゃん・・・今日も一緒だよね?」
「うん、ゆあちゃん・・・いつも一緒だよ」
ズリ這いからハイハイまでに成長するのにはなかなかの時間がかかったわりに、
お母さんのおっぱいをもらっている時のお座りの姿勢から、固定されながらもお座りでおっぱいとは違うものをお母さんに貰うようになって、あたしたちは食べ物を食べることを覚えた。
「うわぁ・・・さっきの苦かったね・・・あゆちゃん」
「あれは毒だねきっと吐いて正解だとおもうよ・・・ゆあちゃん」
野菜・・・辛かったり、苦かったりする食べ物、あたしたちはお母さんやお父さんよりもこれが苦手でしょっちゅう吐き出してしまう。
「あのジュースは美味しいよね・・・あゆちゃん」
「野菜ジュースは甘くて美味しいよね・・・ゆあちゃん」
好みがモノによってカタチによって違うけれども、あたしたちは少しずつ色んなものを食べられるようになっていった。
その頃から、ハイハイで頭をぶつける事なんてなくなって頭の重さを克服して前を向いて進めるようになって、お母さんもお父さんも褒めてくれて居た。
生まれてきて、おっぱいだけじゃなくて野菜や果物色んなものを食べられるようになった頃、あたしたちは随分と頑張って、立ち上がる事に成功した。
でも、気を抜けばまた頭の重さですぐ倒れてしまう。
お母さんはあたしたちが掴まって居られるようにと手を繋いで一緒に歩くのを手伝ってくれた。
一日の中でお母さんがあたしたちにおっぱいとごはんをくれたり、歩く訓練に付き合ってくれたりしてる時間が長くなって、あたしたちはお母さんと一緒に居られる時間が増えて嬉しかった。
それなのに、お父さんはお母さんに
「一日中何してたんだ!家事もろくにしないで誰が食わせてやってると思ってるんだ」とお母さんを叩く。
「ごめんなさい、世話で手いっぱいで時間がなくて」とお母さんは答えていた。
「あゆちゃん・・・お母さんあたしたちのせいで怒られてるのかな?」
「ゆあちゃん・・・もっと色々できるようになってお手伝いしよう」
あたしたちは早く大きくなって、早くお母さんのお手伝いをして、お母さんがお父さんに怒られないように頑張る事に決めた。
夜が来ると、時々お父さんがあたしたちを抱っこしてくれるけど、ごつごつしているのと、たまにしかそうしないからか、落ちそうで不安なのかどうしても泣いてしまう。
最初は泣くとお母さんにバトンタッチされて安心して泣き止むので、お父さんもそれでいいようだったのが、
ある日の夜、あたしたちがお父さんに抱っこされてまた泣いて居たら・・・お父さんはあたしたちの首に両手を置いて、あたしたちは泣くことも出来ず、どんどん眠くなる瞬間のように目の前が暗く暗くなっていった。
意識が遠のく時に聞こえたお母さんの声・・・
「何してるの!やめて!もうやめて!」
ふとお母さんの腕の中で目を覚ましたあたしたちはお母さんが泣いているのを見て、お母さんの事をよしよしってしてあげたくて、撫でてあげた。
「ごめんね・・・本当にごめんね・・・ありがとう」とお母さんは言ってまた、あたしたちを抱きしめてくれた。
「あゆちゃん・・・お父さんに抱っこされて泣いたらお母さんも泣いちゃうね」
「ゆあちゃん・・・なんか苦しかったし、お父さんの抱っこでも頑張ってみよう」
あたしたちはお母さんに泣いてほしくないから、お父さんの抱っこをなんとか我慢する訓練も頑張る事に決めた。
お母さんが歩く訓練を見てくれて居たおかげであたしたちはまた、頭の重さを克服して立って歩くことが出来るようになった頃、
トイレの訓練も始まった。
今までは気持ち悪い感触で伝えていたけど、あたしたち専用のトイレで座っておしっこやうんちをする訓練。
これがなかなか上手くいかない。
それでも、お母さんのお手伝いをしたいあたしたちは汚れたおむつをお母さんの真似をして自分で運んだりして、お母さんに褒められては笑って居た。
「おむつ捨ててくれてありがとう」
そう言われることが嬉しかったから、なかなかトイレ訓練は成功しなかった。
ハイハイのようにやり方を見せてくれるわけでもないから、何となく座ってみるものの、意識しないで出していたものを意識して出そうというのは難しい。
「おしっことうんちって座ってするのが難しいね・・・あゆちゃん」
「すごく出そうって時はもう間に合わないもんね・・・ゆあちゃん」
トイレ訓練をしながら、お手伝いをして「ありがとう」の使い方をなんとなく覚え始めたあたしたちは、お母さんに「まんま」の他に「あんあと!」と言う事や、お母さんの言葉を沢山聴いて、「どーど」とか「えあいえあい!」とお母さんに話しかける事が出来るようになって、
お母さんはとても嬉しそうに笑ってくれて居た。
お父さんに夜な夜なおっぱいをあげるお母さんはあたしたちの抱っこをあまりしてくれなくなっていった。
あたしたちはおっぱいをいつの間にか貰えなくなって居た。
「お母さんのおっぱいもう吸えないんだって・・・あゆちゃん」
「あたしたちはお姉ちゃんになるんだってね・・・ゆあちゃん」
色んな言葉やお手伝い、動くことも沢山出来るようになってあたしたちは気がついた。
お母さんのお腹の中に居た頃、お母さんがいっぱい痛かったんだって。
お母さんが痛かったから、あたしたちも痛かったんだって。
お母さんは今までよりも昼間に目を瞑る時間が増えて、あたしたちと一緒に眠る時間も増えた。
あたしたちが早く起きたら、お母さんがお父さんに怒られないようにお手伝いをして、トイレ訓練も頑張っておむつを自分で捨てたりしながら、あまり泣かずにお母さんが痛くならないように家中を歩いて居た。
一歳の誕生日を迎えて、一本のロウソクの火をフーっと消すのをお母さんと一緒にやってみた。
ケーキはとっても甘くて嬉しくて美味しい味がした。
「ケーキってすごい美味しいね・・・あゆちゃん」
「ケーキもっと食べたいね・・・ゆあちゃん」
ケーキはあたしたちのお気に入りになったけど、そんなにいつもはないみたい。
特別な日の特別な食べ物みたい。
またお誕生日にはきっと食べられるといいなと思いながら、あたしたちは成長していった。
見事にトイレ訓練を終えて、おむつを卒業した頃、お母さんはしばらく居なくなってしまった。
お父さんとあたしたちだけの日が続いて、お父さんにも話しかけるようになった。
「とーたん」と話しかけるとお父さんは嬉しそうだった。
「もうすぐお姉ちゃんだからもっとしっかりしないとダメだぞ」とお父さんに言われた。
しっかりする方法なんて分からないけど、お母さんが居ない間にお父さんはあたしたちに色んな言葉を教えてくれた。
「なにかしてもらったり、モノをもらったら『ありがとうございます』って言うんだぞ」
ありがとうの正式な言い方らしい。
「悪いことをしたら『ごめんなさい』ってすぐに言うんだぞ」
ごめんねの正式な言い方らしい。
キョトンとしながら「あい!」と返事だけするあたしたちにお父さんは頭を撫でてくれながら「よしよし!」と笑顔で言ってくれた。
お母さんは数日後に弟を連れて帰ってきた。
「お姉ちゃんだから弟を可愛がって仲良くしてあげてね」とお母さんに言われた。
「あゆちゃん・・・お姉ちゃん頑張ろう」
「ゆあちゃん・・・一緒に頑張ろう」
そう誓いあったのに、あたしたちは弟にお母さんの時間もおっぱいも取られて、寂しくて、でもお姉ちゃんだから我慢しなくちゃいけないって思っていたら、トイレ訓練むなしく、おねしょをしてしまった。
一回目はお母さんも「大丈夫寂しかったね・・・ごめんね」と言ってくれたけど、連日となるとその言葉もどんどんなくなって、お母さんの笑顔もあたしたちに向けられることが減っていった。
お父さんは「誰に似たんだ・・・こんな毎晩漏らすなんて、もっとしっかりしろよ」とあたしたちに言う。
「どうすればいいんだろう・・・あゆちゃん」
「お母さんに甘えたいよね・・・ゆあちゃん」
弟が居なければ・・・あたしたちがお母さんともっと一緒に居られたのかな。
そう思うと弟に怒りを感じる事もあった。
それでも、何もまだできない弟は昔のあたしたちと同じで泣いてばかりいる。
お母さんはおうちのことでも忙しいから、弟が泣いたらあたしたちが傍に行って「エライエライ」と撫でてあげたりする。
お母さんに言われて嬉しかった言葉だから弟に言ってあげる。
すると弟も泣き止むので、お母さんがあとから「弟の面倒みてくれてありがとう」とあたしたちを撫でてくれる。
弟とあたしたちとお母さんの時間が増えたと思ったら、何となくおねしょはしなくなった。
「いいお姉ちゃんが出来そうだね・・・あゆちゃん」
「うん!いいお姉ちゃんになろう・・・ゆあちゃん」
それにしても、お父さんはいつまで経っても、おっぱいを卒業できないみたいだ。
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