第18話 【ゆあ&あゆ】 享年5歳 その壱
【注意】おつらくなる方は飛ばしてください。
♢♢♢
「ねぇ、ゆあちゃん今日も一緒だからね」
「うん、あゆちゃんが居れば大丈夫」
「お母さんがそろそろお部屋に来て起きなさいって言う頃だね」
「その前におっきしてないといけないから起きよう」
眠い目を擦りながら目覚めたあたしたちが生まれたのは5年前。
泣きながらお母さんのお腹からお外の世界に生まれてきた。
痛かったからじゃない、それまでお腹に居た時の方がずっとずっと痛かったから、
お母さんが痛いようって思うとあたしたちも痛かったから、外に出てお母さんに会えたことがとってもとっても嬉しかったから嬉しくて泣いてたんだ。
あたしたちはいつも一緒。
生まれたばかりのあたしたちは、沢山の人にいっぱい可愛いって褒められたから、それも嬉しくて嬉しくて泣いてばかり居た。
お母さんとお父さんは沢山の人たちにあたしたちを自慢して「本当に可愛いんですよ」と言ってくれた。
それも嬉しくて嬉しくて、あたしたちはいつも泣いてばかり居た。
少しいろんな人たちの表情が見えるようになった頃、笑うことを覚えた。
笑っていると周りも笑ってくれた。
泣いている事しかできなかった頃よりも沢山「可愛い」と褒めてもらえた。
お母さんは「お父さんと結婚させてくれて嬉しい」と喜んでくれた。
お父さんも「可愛いな」と言ってくれた。
あたしたちはここに生まれてきて良かったんだ。
お腹の中に居る時は痛くて悲しくて、お外に出てきてみたら、あたしたちは痛くなかった。
お母さんのおっぱいを吸って、少しずつ成長していくあたしたちはお母さんやお父さんとはまだちゃんと会話が出来ないで居たけど、
あたしたちはお互いにちゃんと会話が出来て居たからいつでもお互いがお互いの相談相手だった。
あたしたちは眠くなる瞬間はとても不安になってしまう。
お腹の中に居た時みたいに暗くなるから。
「暗いの怖いね・・・あゆちゃん」
「うん、また痛いのは嫌だね・・・ゆあちゃん」
痛いの悲しいのを思い出して、もしかしたらこの暗いのがずっと続いたらどうしようって、あたしたちは泣いて泣いて泣き疲れて結局眠りにつく。
目が覚めた時にお母さんの匂いがすると、ふと安心する。
お母さんの笑顔が見れるともっと安心する。
でも、お母さんが目を閉じて居るとあたしたちはまた、不安になって泣いてしまう。
泣くとお母さんが目を開けてあたしたちを撫でてくれる。
お腹が空いてもあたしたちは言葉が話せないから泣いて伝える。
お母さんはそれであたしたちにまた、おっぱいをくれて、あたしたちはまた一安心する。
「お腹が空くとなんだか不安だよね・・・あゆちゃん」
「なんでだろうね?・・・ゆあちゃん」
まだ自分で動けないあたしたちは、おしっこをしたり、うんちをしたりすると気持ち悪い感触がし始めて、やっぱり泣いて伝える。
「お腹空いて居る時とこの気持ち悪い感じの時は少し伝え方変えようか?あゆちゃん」
「そうだね・・・お母さんもどっちか分からなくて大変そうだもんね・・・ゆあちゃん」
それから、お腹が空いて居る時は「あー」気持ち悪い時は「うー」と言うようにしたけど、
お父さんが「お?しゃべり始めたぞ」と喜んで居て、なかなかあたしたちの気持ちに気づいてくれない。
お母さんも「本当しゃべってますね」と言って気づいてはくれないので結局また泣いて伝えるしか方法が今のところない。
「もう少しお父さんとお母さんの言葉を聴いて練習しよう・・・あゆちゃん」
「そうだね・・・まずは聴いて覚えよう・・・ゆあちゃん」
あたしたちは寝返り程度の動きが出来るようになった頃、お父さんとお母さんの話す言葉をしっかりと聞くようになった。
「やめてください!」
遠くで聞こえるお母さんの声
「うるさい!」
そして、お父さんの声
姿は見えないままなのでどんな時に使うのかは、分からない・・・。
お父さんとお母さんのやり取りに、耳を傾けながらあたしたちは目の前をクルクル回る物に触ろうと一生懸命手を伸ばしたり、ゴロンゴロンと動いてはクルクル回る物が見えなくなって身動きが取れなくなって、泣いてしまう。
するとお母さんがすぐに来てくれて、またクルクル回る物が見えるようにしてくれる。
お腹がいっぱいでも、お母さんに抱っこされている時はとっても安心する。
「ふわふわであったかくて気持ちいいよね・・・あゆちゃん」
「うん、お母さんの匂いがして嬉しいよね・・・ゆあちゃん」
もっとお母さんの傍に居たい。
あたしたちは少しずつゴロンゴロンと手を伸ばす練習をして、ある日クルクル回る物が見えない姿勢から手を付いて膝を曲げる事に成功した。
でも、そこでまた泣いてしまう。
それ以上は動けなかったから。
お母さんが来て、あたしたちを見て抱き上げてくれた。
クルクル回る物が見える場所からお母さんがいる場所に一緒に連れて行ってもらえた。
そうか、暗い時にはお母さんは傍に居てくれるけど、あたしたちが泣かないで居るとお母さんは少し遠くに居たのだけど、
その日偶然成功した姿勢によって、環境は変わったんだ。
「あゆちゃん・・・もっと動けたらもっとお母さんの傍に居られるよ」
「ゆあちゃん・・・そうみたいだね、もっと頑張ってみようか」
その日以降はゴロンゴロンして手をついて膝を曲げる姿勢を何度かチャレンジしては、お母さんに手伝って貰いながらまた天井を見上げた姿勢に戻してもらってトレーニングをした。
お母さんはあたしたちと同じ姿勢で動き回りながら、
「ハイハイはこうやって進むんだよ」と教えてくれた。
真似をしてみようとしたら足の方はついてこなくて、手もつけなくなって、
その代わりお母さんと同じようにはいかないけど、前に進む方法を見つけた。
「あはは、ほふく前進してる」とあたしたちを見てお母さんは嬉しそうだった。
ズリ這いを覚えたあたしたちはとにかく前に進む、
前に進めない理由がないなら前に進む。
ゴツン!と頭がぶつかるとすごく痛い。
痛いのは本当に嫌だからそうなるとやっぱり泣いてしまう。
泣くとお母さんが抱っこしてくれて泣き止ませながら、
「今日もいっぱい頑張ったね・・・エライエライ」と褒めてくれた。
嬉しい時は笑うようにした。
「嬉しい時は泣くより笑う方がお母さんも嬉しそうだよね・・・あゆちゃん」
「そうだね、いっぱい笑って、泣くのは最終手段だね・・・ゆあちゃん」
日々の鍛錬の成果もあって、あたしたちはお部屋の中をぐるぐると回ることを覚えた。
天井からぶら下がる目の前のクルクル回る物がヒントになった。
これならぶつからない!
そんなことはなく、頭が重くて上がらないので前が見えないまま進むあたしたちは必ずどこかしらにはぶつかっては泣く、
そんな日々を過ごしながら、お父さんとお母さんの話もちゃんと聴いている。
あたしたちがすっかりトレーニングに疲れて眠って居た頃、
お父さんはお母さんに覆いかぶさりお母さんは苦しそうに呻いて居た。
目覚めたあたしたちは「やめてー!」と言いたかったけど、発音できなくて、とにかく泣いた。
これが一番手っ取り早いことはもう知って居たから。
お母さんが殺される・・・そう思って不安だった。
あたしたちが泣くとお父さんは「うるさいな」と言ってお母さんから離れた。
お父さんはお腹が空いていたのか・・・。
お父さんにおっぱいをあげて居たお母さんはあたしたちを抱きしめて、
「ありがとう・・・ごめんね」と呟いた。
「ねぇ、あゆちゃん・・・ありがとうと、ごめんねはどう使う?」
「そうだね・・・ゆあちゃんもう少し聴いて居てみようか」
ありがとうの使い方、ごめんねの使い方はまだ分からないけど、
「やめて」の使い方は何となく分かった気がした。
そして、「うるさい」の使い方も何となく分かった気がした。
どっちもあんまり気持ち良くない響きだけど、お母さんがあたしたちに言ってくれた、ありがとうとごめんねは、きっとそこまで気持ち悪くない響き。
もう少し、ハイハイの練習と言葉を聴いて、しゃべる練習を頑張ろうとふたりで決めた。
お腹が空いたときに「まんま?」とお母さんに聞かれて、「まんま」と答える事が出来た。
「同じようにしゃべれるようになったね・・・あゆちゃん」
「まんまってなんだかしゃべりやすいね・・・ゆあちゃん」
「まんま」とお母さんに言うとお母さんは笑顔でおっぱいをくれた。
頭を撫でてもらいながら、お腹いっぱいまであたしたちはお母さんのおっぱいを吸って眠りについた。
「明日ももっとしゃべって動こう・・・あゆちゃん」
「やれない理由がない限り一緒に頑張ろう・・・ゆあちゃん」
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