第17話 黒いてるてる坊主

てるてる坊主、ロボットに教育された中でも女たちが出かけるという時には作って渡すようにと言われていた天気へのまじないらしいが、


俺の作るてるてる坊主は役に立たないとそれだけで丸一日痛みを与えられたことも多々あった。


これは俺が作り出したてるてる坊主なのか?


随分と煤で汚れちまって黒々としてやがる。


俺が心から女たちのために晴れるようになんて願ってやらなかったから、雑に扱われたんだな・・・。


「「すまないなお前たち」」と謝った俺に、


「お誕生日おめでとうございます」とてるてる坊主が返事をした。


俺に誕生日なんかあったのか・・・初めて祝われたな・・・あはは。


「「ありがとよ・・・」」と返すと、


「そしてあなたたちにお伝えすることがございます。


まずは【日本五千五ノにほんごせんごの】としての人生満33年丁度ご苦労さまでした。」


ああ、そうか俺、依頼失敗して刺されたんだっけじゃあ、こいつらはてるてる坊主じゃなくて死神ってやつか・・・どうりで黒いわけだ。


「俺は死んだのか?死神さんよ・・・」と聞くと、


「その通りです」とだけ返してくる。


俺は今こいつらと何をしている最中なんだ?


「一個いいか?こいつ誰だ?」と隣の奴が話しかけてくる。


こいつって俺の事だよな?こいつは俺と同じ人間の男だよな・・・巻き添えで死んだのか?


依頼のターゲットでもない。


「お前こそ誰だ・・・」と返すと


「俺は【日本五千五ノにほんごせんごの】だ」というが俺もそうなんだが・・・。


不思議そうな顔をする俺とその男を見て、一つだけ居た白いてるてる坊主が話し始めた。


「こんな時代になってしまったので、とてつもなく説明が大変ですが・・・あなたたちはふたつで一人の【日本五千五ノにほんごせんごの】という人間です。鏡やガラスに映ることもなく、身だしなみはロボットがすべて行う過保護さ故か、己が姿も知らないまま死を迎えるとは、何と言っていいか分かりません」


鏡やガラス?確かに、ドロイドやロボットたちによって俺は特に何かを選ぶことなど許されず、髪形や髭、服装、身体を洗う事すら歯を磨くことですら生まれた時からずっと自分で選びやったことなど何もない。


筋トレも暗殺の訓練も女たちへの奉仕もすべて、ロボットからの命令に従って特定の動きやセリフを使うだけで、俺は俺自身を見た事すらなかった。


もちろん応用は俺自身がやったはずだが・・・それは所詮、痛みという恐怖から逃れるための処世術でしかなかったのだろう。


「お前、俺だってよ」ともう一人の俺に話しかけると、


「俺ってこんな顔してたんだな」としみじみ頭の先から足の先までお互い眺めた。


ふたつで一人か・・・心の迷いみたいな最期の選択をしたのは俺かこいつのどちらかってことか・・・でもまぁ、あんな地獄みたいな場所で生きていたって楽しくもなんともないし、死んで逆にありがたいくらいだ。


まぁ、依頼してきた女のその後はやや気になるが、これで嫌々やらされて来たことから解放されるじゃないか・・・。


俺たちは安堵していた。


死というものは散々ターゲットに与えてきたものだ・・・奴らもこんな清々しい気持ちになったのだろうか・・・あんな世界だったもんな・・・。


ただ、最期に聞いたあの男が言った言葉少し気になるな・・・。


「おい、死神たちさっきまでいた世界の事お前たちは知ってるのか?」


死神たちは顔を見合わせながら何やらこそこそ話している。


「お前たち【日本五千五ノにほんごせんごの】に与えられた時間は2日だけだ見たければ己の目で見てくるがいい2日後改めて話しかける」


そう言って死神たちは消えていった。


俺たちは何を見ればいいのか分からなかったが、気になった場所を思い浮かべるとその場所に移動することが出来た。


俺が殺し損ねたターゲットの男はまだ生きていた。


殴りかかろうとしてもすり抜けちまう・・・。


くそ!身体はないのか・・・。


そう思っていたら、銃声と共にそのターゲットは倒れ、起き上がらない・・・死んだのか?


誰がやったんだ?周りを見渡したが、もう誰も居ない。


そういえば、外の世界だ・・・どこの情報も脳内にはないからここじゃないどこか外の世界を見たいと思い浮かべると、


そこには俺たちがいた檻とは少し違う形の建物があり、女と男と子供が一緒に中に居て、ドロイドやロボットもいるには居るが立場はまるで逆だ。


ドロイドは女や男の命令を聞いて餌を作ったり片づけをしたりしていて、ロボットは子供に楽しそうに話しかけられては答えたりしている。


女と男は子供と楽しそうにしている。


あれは誰がどう演技しているんだ?そこにふわりと白いてるてる坊主が現れた。


「君たちにクロたちはどうしても優しくは出来ないから君たちの知りたいことは僕が教えてあげるよ・・・あれはね・・・家族っていう集まりなんだ」


そう白いてるてる坊主は俺らに言う。


「家族・・・誰がどう躾けられて誰のために演技しているんだ?あいつらは」


そう聞くと、


「彼らは代々自分の親に躾けられ、自由に発想し、自分の幸せのために誰かを愛し、誰かに愛されたいと思考してあの形の集まりになっているんだ・・・君の問いに答えるのならば・・・全員が自分のために演技しているとも言える」


それにしても、楽しそうな演技は俺が頑張ってもあんなには出来ないかもしれない・・・。


てるてる坊主は続ける、


「ただ、演技をしていない時もある。あの集まりを羨ましいと思うかい?」


確かに俺らのいた檻はドロイドとロボットと俺らしか居なかった。


演技をしないで済む時間は確かに檻の中では少しだけ存在したかもしれない。


ただ、一歩檻から出たら、その先は演技をし続けることしか許されなかった。


「羨ましいという感情が分からないが、俺よりはマシな気がする」と答えると、


「そう見えるだろう・・・君たちからしたら、ただ残念なことにあの建物も君たちの檻の中も大差はないんだ」


どういうことだ・・・?


「あの女の人も男の人も子供ですらも、あの建物から出たら演技をしていないと辛い思いをすることは同じなんだ・・・痛みから避けるために生きていくために本当の自分を押し殺して疲れ果てて帰ってくるんだ」


見た目が違うだけであれも一種の檻なのか・・・。


檻は外敵から身を守るものでもあったのか?


「でも、俺は檻の中でも失敗すればチップから痛みを与えられてもがき苦しんでいたんだぞ」


そうだ、外敵が入って来なくても痛みは場所も関係なく襲ってきた。


「そうだね、そこも実はあんまり大差ないんだよ・・・ほら見てごらん・・・あの子供の身体・・・」


あれは・・・なんだ?見た事のない色の肌色がまばらにある。


「あれは痣って言ってね、まぁただ転んでも出来たりするんだけど、君たちはドロイドとロボットに守られてたから経験がないよね・・・君たちの痛みは神経を使った痛みでしかなかったから皮膚の色は変わらなかったもんね」


そういうてるてる坊主に聞いた、


「あいつはそんなに転んでばかりいるのか?」すると、聞いたことを後悔するほどの答えが返ってきた。


「あの子はもちろん転びもするけど・・・あの楽しそうな家族に殴られたり蹴られたりして痣が出来てるんだよ・・・建物から出ても、その先で殴られることも蹴られることもあるんだ」


女はあの子供を産んだのだろう・・・子種はあの男だろう・・・確かに俺を産んだ女も俺の子種の男も俺は知らない。


俺はドロイドとロボットに守られていた・・・?


ならばあの子供は誰にも守られていないのか?


俺らは女たちに奉仕すること、命令があれば外の男を殺すことだけで、どれも失敗しなければそれなりの餌が貰えていた。


外の世界での戦争ってこれのことなのか・・・?


「外の世界はこのくらいでいいなら、もう時間もあまり残されていないけど心残りはないかな?」とてるてる坊主は聞いてきた。


2日と言っていたが、この家族を見ているだけであっという間に1日が過ぎて行ってしまった。


心残り・・・あの女の依頼を遂行できなかった・・・あの女は俺を待っているだろうか・・・?


「少しは気になるもんだな・・・あの女のところに最期は寄っていきたい」


そう伝えると白いてるてる坊主は消え、目の前には俺に抱きしめられて眠っていたあの女が居た。


「あ・・・あぁ・・・ゴセン・・・ゴセン・・・こんなになるなんて・・・あたし・・・知らなか・・・あぁん!」


と他のディルドにゴンゴン腰を振らせて、壊れに壊れているあの女が居た・・・。


きっとあのディルドも五千番台なんだろう・・・。


「俺に拘っていたわけじゃないのか・・・つい数日前まで自信がなさそうな事を言っておいて・・・もうこんなに乱れてこの女も結局、他の女たちと変わらなかったんじゃないか・・・」と不思議な感覚になった。


これは何と言う感情なんだろうか・・・俺にも、もう一人の俺にも分からなかった。


そしてそんな女が他のディルドと乱れつづける一夜をただただ見つめて、時間が来てしまった。


クロと呼ばれる死神だか、てるてる坊主だかわからないがそいつらは再び現れ俺たちに告げた。


「お前たちは人生を卒業することは出来なかった、更なる過酷な状況に置いてもう一度0から人生を始める以外に選択肢はない」


え?この33年の人生よりも更に過酷な状況で人生を始める?


「いや、どういうことだ・・・俺が一体何をしたっていうんだ・・・」


俺は命令通りにちゃんと生きてきた・・・何もしていない。


「お前たちは生まれた時から多くのマホウを与えられている・・・【恵の雨を降らせるマホウ】【演技ができるマホウ】【守られるマホウ】【ケガをしないマホウ】【心を病まないマホウ】挙げればキリはないが、本来ならばこの人生のまま俺たちクロをひとつずつ減らして生きていくのに、


厄介なことに【33歳の誕生日に死ぬマホウ】というのが付与されていて、このまま俺たちクロてるてるとシロてるてるを連れてやり直しさせられるしかない」


マホウってなんだ・・・。


「次も33年で終わるのか?」そう聞くと、


「そのマホウをかけたシロはもう消えたマホウが回収されたからな」


次の人生がどんなであろうと同じ結果にならないように頑張ろうな・・・と俺らはお互いに顔を見合わせた。


「言っておくが、今までの記憶も、今のここでの記憶もお前たちは次の人生に持ち込めないからな・・・せいぜい俺たちを消せるだけのことをしてみろ」


まじか・・・。


次は・・・女がいいか・・・いや、男がいいかな・・・


どっちもなんか、めんどくさいな。

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