第16話 【日本五千五ノ】 享年33歳 その参

幾度と俺をゴセンと呼ぶ女はこの世界について意外にも簡単に話してくれた。


この世界に女として産まれ、その女は今18歳になるそうだ。


生まれてから女は俺たち男と違って子育てはドロイドがしていたらしいが教育だけは大人の女にされていたようだ。


「遥か昔日本の男は女性に対してあらゆるハラスメントを行ってきたんだって、それに対して異議を唱え続けて、子育てを任せてみてもろくにできず役に立たないだけでなく、


女性を性欲の捌け口として金銭で買い命にも関わる性病をバラまいたり、魅力的な案件をチラつかせておいて女性が身をささげても約束を反故にして裁判になったりして負けたことがあるんだと教わったわ」


ハラスメントはともかくとして、買うにしても売るものがなければ買えもしないだろうに・・・それは売っている女は、約束さえあれば身を捧げる女は何のために男に近づいたんだ・・・?


「もう何百年も前に日本では男と女性の戦争が起きていたそうなのよ」


戦争・・・。


俺は女に聞いてみた「その戦争って今外で起きている戦争と何か関係あるのですか?」


女は首を傾げて答えた。


「外で起きている戦争?あたしはそんなことは聞かされてないわ・・・誰から聞いたの?」


あ、いや・・・しまった・・・他の女の存在をあまりこの女には知られない方がいい。


「いえ、ロボットがそんな事を言っていたのです」ロボットすまん。


「そう?そちらのロボットはそんなことを言うのね・・・外でも戦争が起きているのかしらね・・・」と少し落ち込んでいるようだった。


「ゴセン、今日はゴセンにお願いがあるの・・・あなたにしか頼めないらしいの・・・でもあんまり言いたくもないの」と含みを持たせながら話し続けた。


「もちろんお嬢様のお願いならばすべて僕が命に代えても叶えてさしあげます」なんだ・・・なんの頼みだ・・・。


「実はゴセンも知っているようにこの国にはあなたたち日本を氏に持つ男とは違う男たちがいるのだけど、その男たちとあたしたち女は政治的な場所で対話をすることがあるのだけど、本来は彼らはあたしたちに対して害を与えないようにこの何百年で作り替えられた法律でも縛られているはずなのだけど」


少し辛そうな顔をした・・・。


「あたし、ゴセンにかわいいって言ってもらえて少し安心していたの・・・でも、ある外の男があたしのこの小さな胸を見て言った


『これはこれはまだこれからいくらでも大きく育つでしょうかわいいお嬢さん』て言葉が同じかわいいでも気持ち悪くて・・・


これをお姉さまたちに聞いたら・・・ディルドに・・・ゴセンに頼めば何とかしてくれるって・・・」


ああ、これは確かに言葉のままに命懸けで叶えなければいけない俺らのもう一つの仕事の出番だ。


「承知いたしました。お嬢様の憂いを必ず晴らしてみせます。その男の詳細を後ほど書面でいただけますか?」覚悟するしかない。


「ねぇ、ゴセン・・・これってどうなってしまうの?」と不安そうだ。


この質問への答えはたった一つしか言ってはいけない事になっている。


「僕が当の男にきっちりと話をしてご理解いただいた上でこの国に入らないで貰う事をお約束してもらうのですよ」


嘘だ・・・。


「そうなのね。それでその人はお仕事とかに影響出たりしないのかしら?」


言いたくなかったのは、それが原因だったのか・・・。


今この国に居る男は二種類、俺ら日本を氏に持つ男と、この国の女たちに相手にされない男たち。


誰一人として家庭なんか持っていない、親として子供を見るどころか、このご時世には結婚制度も存在しない上に、男に間違っても親権など行くわけもない。


母親となったはずの女も子育てをするわけでもない。


「お嬢様はやっぱりとてもお優しい方ですね。大丈夫ですよ安心してください」


ちょっとホッとしたのかちょいちょいと手招きして俺を呼ぶ。


「あたし、ゴセンに会ってもうどのくらい経ったかしら・・・」と言う。


「お嬢様に初めてお会いしてから今日で3か月丁度になります」と答える。


少しだまり続ける女は覚悟をするように言葉を吐き出した。


「あたし・・・ゴセンにかわいいって言われたけど、それって子供をみるようにかわいいって事だったのかな・・・?」ちょっと何を言っているのか分からない。


おい、ロボットこれの答えは習ってないぞ・・・。


それもそのはず・・・俺らを育てたロボットはあくまでも女を喜ばせるための手練手管とセリフでその夜一晩満足させるところまでしか教えてはくれない。


何度も呼び出されるようになるためには応用力が試され、その後の事は自己責任という事になっている。


「お嬢様を子供のようにかわいいとは思ったことはございません。妖精のようにかわいいとは初めてお会いした時に恥ずかしながらお伝えしましたが・・・いかがいたしましたか?」と言ってみた。


「うん・・・でももう3か月なのに、まだその・・・そういう事してないのって・・・女として魅力がないんじゃない?ってお姉さまたちが・・・」


ああ、女の敵は本当に女なんだよな。この女の周りのお姉さまたちって何のためにこの女にマウント取ってるんだ?


女の考えることなんか本当にわかんねーどんな女なんだ・・・。


「失礼ですが・・・そのお姉さま方はお嬢様とはどういったご関係なのですか?僕のかわいいお嬢様になんてことを」と聞いて答えに後悔することになるとは思わなかった。


「あたしがゴセンを最初に呼んだ前日に、あなたを呼んだお姉さまで・・・あたしたちはディルドを呼んだ翌日にはお茶の席などで、どんなことがあったとか感想を共有しているの」


うわぁ・・・最悪だ・・・そのお姉さまなんなら週に一回は俺を呼んでる・・・。え、共有されていたなんて聞かされてないし・・・ロボット!


「あの・・・お嬢様・・・僕は・・・」いや、何を言おうとこればっかりは激痛を避けられないだろう・・・。


「ああ、ゴセン・・・あなたたちがロボットに教育されてセリフを話している事はちゃんとわかっているつもりなの・・・だからお姉さまとの事ゴセンを責めるつもりはないんだけど・・・あたしってその、魅力ないからまだそういう事してくれていないのかなって・・・」


いや待て、俺たちが勝手に手を出したらそれこそセクハラで激痛の日々だろ。


もしやこれはこの女・・・俺に感情を求めている?


「お嬢様を僕なんかが汚してしまうのは勇気が要ります。」いや必要なのは指紋認証だが。


「あたしがもし、望めばゴセンはあたしを愛してくれる?お姉さまたちよりもあたしを独占したくなる?」と乙女はこれまた難しい質問を投げかけてきた。


でも、幸いにも俺は今確実にこの質問にあう答えを持っている。


「お嬢様、僕は愛おしいお嬢様を傷つけた男が二度とお嬢様を傷つけないように明日にでも話をしてまいります。もし、その話し合いが無事に済んだ暁には、お嬢様にさらに触れる許可をいただけますでしょうか?」


女はそれを聞くと・・・少し嬉しそうに「うん」とだけ答えた。


「それでは今夜はいつもと同じで抱きしめてお休みになるだけでよろしいですか?」と【話を聞く】を終わらせようとすると・・・。


「うん・・・でも、今日はゴセンの肌の温度を感じて寝たい」というので、


電気を落として、ベッドに一糸まとわぬ姿で入り女を抱きしめた。


これは・・・いつの間にか女も一糸まとわぬ状態じゃないか・・・。


三か月ただ話をして抱きしめて眠るだけだった仕事がここに来て、指定では【裸で抱き合って眠る】はずだが・・・指紋認証があるわけでもなく、肉体的奉仕の指定もない・・・それでも、俺たちの身体は女たちに反応するように躾けられている。


「あはは、あったかい・・・それに・・・これって・・・」と俺の反応したものに触れようとする。


「あ、お嬢様大変申し訳ございません・・・これはセクハラになってしまいます・・・今日はこんな僕ではお嬢様のご希望を叶えることはできません」


来るか・・・痛みは来るのか・・・。


「いいの、これってお姉さまが言っていたわ・・・女として見ていたら男はこうなるんだって、それってゴセンがあたしの事女としてかわいいって言ってくれてるってことよね?」


生理現象みたいなものなのだが・・・逆の立場なら女は生理現象だから合意はしていないと言われるのと同じなのだが、どうやらこの女が求めている答えは俺らを呼ぶ他の女と同じか。


「はい・・・僕はお嬢様を女性として愛しています」と言って抱きしめた。


「嬉しい・・・ゴセン・・・」そうして女は俺の唇に震えながらキスをして胸にうずくまって眠りについた。


翌日、俺は依頼内容を確認して、大雨の降る中、ある男の元に向かった。


「おい、そこの男俺が何しに来たのか分かってるよな?」と声をかけた。


男は「俺はお前に殺されるような事は何もしていない、何のことだ」と慌て始めた。


「昨日ある女性の胸元を見て卑猥な発言をしたのを忘れたか?」と話すと、


「昨日会った女・・・子供の事か・・・卑猥な発言なんてしていないぞ・・・これからもっと背が高くなるって意味で大きくなるとは言ったかもしれない・・・誤解だ」と言う。本音かもしれないし嘘かもしれない。


残念なことにこの時代では、どちらであれ言葉を聞いた女側が感じた感覚だけがすべてなのだ。


「分からないけど、俺が動かされるってことはもう手遅れって事なんだよ」


男は慌てたようにとにかく喋って気を逸らそうをし始めた。


「お前日本の男だよな・・・どうせろくに何も知らされないで生きてきたんだろ・・・お前が今いる国が日本じゃないとか言われてるみたいだけど、お前が今話してる言葉・・・日本語だって知ってたか?」


日本語・・・日本はなくなった国なのに言葉だけ残ったのか・・・?ちょっと男の話を聞きたくなった。


「この国は戦争で負けて他の国に取られたんじゃないのか?言葉だけ残ったのか?」と聞き返した。


「もう何百年経ってるのに、そっちには何も教えられてないんだな」


そういえば、この男たちはどこから生まれたんだ?


「お前は何百年女と子供作る行為そのものが出来ないのに、何故外にいるんだ?」


「俺は・・・生まれた場所はお前と同じだよ・・・この国の支配者の男なんてとっくの昔に消えたんだよ・・・ただお前が今俺を殺すか、俺を殺さずに俺らの側につくならもう、檻の中に戻ることも女に仕える必要もないぞ・・・どうだ?俺と手を組まないか?」


この国の支配者はあの女たちだっていうのか・・・。


この外の男っていうのは俺らが散々殺してきた男は俺らと同じ生き物だったというのか・・・。


「もし、それが本当なら俺は自由に生きていけるのか?」


「ああ、ここは遥か昔、倭国という国であった、その後日本国という国であったが、1899年から1947年は大日本帝国という国であった、


その後長い間日本国という国だったのだが、21世紀に起きた国内戦争において男は女たちに負けて、今は【女傑大国旧日本】と呼ばれているが遺伝子は日本人の遺伝子に拘って顔のいいものや、従順なものがお前らのように奉仕させられているんだ」


・・・「俺もお前らの仲間にしてくれるのか?」


「おう、来いよ・・・歓迎する・・・ほら俺の手を取れよ」そう言われその男に近づくといつの間にか俺は後ろから刺されていた。


「ふっ・・・学がないというのは情けないな・・・当時さっさと海外移住した上級国民の子孫である俺らがお前たち種馬と同じなわけがないだろう・・・この国の女なんか政治以外に何の用もないわ。


知らないだろうなぁ・・・女なんてこの国以外でいくらでも抱けるんだよ・・・残念な人生だったな」


嘘だったのか・・・どこからどこまで嘘だった・・・?


激痛とは違って、痛みすらも分からないまま意識がどんどん遠ざかっていく。


あ、俺依頼失敗したの初めてだ・・・情けねぇ・・・。


そんなことを考えていたら、目の前に沢山の黒い黒いてるてる坊主が現れた。


これはなんだ?

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