第15話 【日本五千五ノ】 享年33歳 その弐
前日の指定は俺が産まれてから今までで一番多いパターンだが、二番手に多い上に、かなり餌を貰えるかどうか、痛みを避けられるかどうか未だに成功率がかなり低い指定が存在する。
今日連れていかれた場所ではその指定が来てしまった。
性的奉仕には違いないのだが、肉体的奉仕はこの場合なくても良かったりするが、ぶっちゃけ肉体的な奉仕の方が100億倍楽だったりもする。
部屋には昨日の女とは違う初めての女がいた。
「初めましてお嬢様。お会いできて光栄です。僕なんかでよろしいでしょうか?」まずはテンプレ。
すると女は手招きをちょいちょいとだけして俺を呼ぶ。
近くまで行くと、
「あなたナンバーは?」と聞かれ、「日本、五千五ノでございます」と答えた。
ふうん。という顔をしながら
「日本なのは分かってるわ・・・あなたたちディルドには日本しかいないんだから」と呆れたように話す。
「申し訳ございません」と言っておく方がいい。
「いいわよ、ナンバーなんてあまり聞かれないのでしょ・・・」
実際に呼び名であるナンバーを聞いてくるのはハードル高めの指定がほとんどだ。
という事はかなり聞かれているのだがここでそんなことをそのまま言ってはいけない。
「はい、その通りです。僕が経験が浅く失礼いたしました」と返す。
「5005か、だいぶ数字が大きくて呼びにくいわね・・・ゴセンって呼んでいいかしら?」5減ったな・・・。まぁ何て呼ばれようが構わない。
「もちろんですお嬢様」今日の俺の呼び名はゴセンだ。
女は俺の呼び名を決めて、ベッドの上で両手を後ろについて、上を見上げ、両足をブラブラと退屈そうにしている。
これはいわゆる「察しろモード」なのだが、口火を切るのが俺なのか女なのかはその時その時で違ってくる。
こういう時の対処の仕方はロボットに仕込まれた中でも無数の選択肢がある。
ただ、黙って相手が話し始めるのを待つか、
いかがされましたか?あまりお元気がなさそうにお見受けしますなどと声をかけるか、
何かお飲みになりますか?と提案する。
ここで勝手な判断で肉体的奉仕に出ようものなら激痛は確定だ。
さて、どうする今日の俺・・・。
女は今日はベビードール部屋の中は適温に保たれている。
よし、勝負に出よう。
「お嬢様失礼いたします」と言って露出している肩から薄手のブランケットをかけた。
来るのか・・・痛みは・・・顔には出さないように心で怯えていた。
「あら、紳士な対応ができるのね・・・ちょっと話を聞いてほしくて今日は」という最悪の指定が来た。
女の話は相談という名目や愚痴という名目がついていようと、共感がつきものなのだが、俺ら繁殖された人間には共感はとてつもなく難しいことで、それは意外なことに認識されていない。
「僕なんかでよければ聞かせてくださいお嬢様の心が少しでも軽くなりますようにお力になれればよいのですが」いいや、聞きたくないマジで聞きたくない。
しかし、俺がこの世界がどうなっているのかなどは実はこういう話し相手指定をする女から仕入れた話でもあるため、今現在俺の脳内に少しばかりある話もこういった女たちから聞かなかったら本当に何もしらないまま腰を振るだけの道具としてしか扱われなかっただろう。
俺にとっては知りたいことを聞くチャンスでもある。
ただ先に述べたようにこの指定はクリア難易度が100億倍高い。
かといって逃げ出すことなどは不可能。
気に入らなければ痛みを与えられて檻に戻されるだけだが、この指定にクリアすると貰える餌は昨日の比ではない。
そして、演技をしながらの嫌々な肉体的奉仕も運が良ければしなくてもいい。
そして女は話し始めた。
「あなたたち日本の男たちから見るとあたしってどうみえるのかしら?」
はい、早速の激ムズなお題来ました。とても抽象的で言ってほしい言葉は既に女の中では決まっているがちょっとでも違えば、ハラスメントとして一気に痛みを受ける事になる。
かといってこちらも抽象的に返せばどうなるかというと、
心が籠ってない。と言われてやはり痛みは避けられない。
そもそも今の時点で言語化できるのは内面ではなく外見への言及のみだろう。
かといって外見を褒めればルッキズム違反として痛みを受ける可能性もある。
どんな地雷が埋まっているかは、各女によって違う。
「僕は今日お嬢様にお会いできてから、まだほんの少しの時間しか経っておりませんが、お嬢様の僕へのお言葉には労いにも似たやさしさを感じています」
それを聞くと女はまた上を向いて両足をブラブラと揺らし始めた。
「まぁいいわ、あたしね・・・ディルドを呼ぶの今日が初めてなの。正直言って何を頼めばいいのかもわからないし、あたしが何をしたくてゴセンを呼んだのかもわからないの」とこれは少ないケース。
そして続けた。
「ゴセンはこの世界ってなんか変だと思わない?ドロイドやロボットたちが子育てをして、産むのは女にしかできないとしても、女が産まれれば自動的にこちら側になって、男が産まれればゴセンたちのようにあたしたちに仕えて、痛みに耐えながら言葉や態度も全部飼育ロボットに教え込まれた情報を応用しているだけなんて」
おかしいとは思っている・・・でも、女の中にもこういう考え方をするやつがいるとは珍しい。
「僕は、おっしゃる通り飼育ロボットに教育されたこと以外を知り得ませんこの世界のことを何一つ知らないと言っても過言ではありません。ただ知りたいという気持ちはあります。この世界のことも、お嬢様のことも」
今回は当たりなのかもしれない。
「そうだよね・・・他の女の人にももうだいぶ呼ばれてるよね・・・それでも、他の女の人と比べたらあたしってゴセンから見てどうかな・・・」と自信なさげに問いかける・・・。
昨日は比べて上であることを喜ぶタイプの女だったが、初めてとなると比べる事で何を言っても痛みが待っている。
「僕はお嬢様と誰かを比べることができません。外には僕たちとは違う男がいるとは聞いたことがありますが、お嬢様は彼らよりも僕たちを今日はお選びくださいました。それだけで僕はとても光栄に思っています」
抽象的すぎたか?不満ポイント溜まってしまったか?
「ああ、言葉が悪かったわね・・・比べてって言ったから答えにくくなったのかしら・・・実は今日他のお姉さま方にあたしはこの時代に生まれた割に身体も貧相で魅力がないと言われて、確かにお姉さま方は豊満な身体にメリハリもあってディルドたちにも人気があるというお話をされたのよ」
ああ、ないない!俺たちは餌を貰うために生きていくためにもてはやし、気分を良くしてやっているだけで誰一人として自ら呼んでほしいと思っているやつはいない。
「お嬢様のお気持ちをすべて理解することなど僕程度の男に出来るわけもありませんが、僕のお嬢様の外見に対しての発言をお許しくださいますか?」
これ大事ね・・・ちゃんと許可取らないと大変なことになるからね。
テストに出るよここ。
「もちろんよ・・・それが聞きたかったんだもの」許可は下りた。
「それでは、お嬢さまを初めて今日見て僕は一番に可愛らしい妖精のようで、抱きしめたくなるけど壊れやすいのではないかと思うほど美しい淡さを纏っている方だと感じました・・・お嬢様はとても魅力的ですよ」
そこでまた女は上を見上げて両足をブラブラと揺らし始めた。
多分欲しい答えが違ったんだ・・・。
「そっか、抱きしめたくなるか・・・抱きしめられるとどんな気持ちになるのかしら?」と色んなことを知りたいお年頃のようだ。
「ただ抱きしめられるだけでは、お嬢様はご満足していただけないと思うのですが、お嬢様がもし、僕にチャンスをくださるなら抱きしめさせていただいてもよろしいですか?」と問うと、コクンと頷き立ち上がった。
「僕が抱きしめて痛くなかったら、お嬢様も僕を抱きしめてみてもらえますか?」更に頷きかけて、はっ!と言葉を発した。
「背中って合意の指紋認証のこと?」と。
一応知ってはいるんだな・・・。
「いえ、合意の指紋認証をいきなりさせたら僕たちは一か月程痛み苦しむことになります。今は抱きしめあうことを経験するだけですのでご安心ください」
すると納得した様子で両手を広げている・・・ゆっくりと女の腰に手を回し引き寄せるように振れるよりも少し強く抱きしめた。
女は言われたとおりに抱きしめ返してきたのでそっと耳元で
「かわいいですよ・・・お嬢様」と囁き、抱きしめる力をほんの少し強くした。
女は「抱きしめられるって気持ちがいいのね・・・今日はあたしを抱きしめながら一緒に眠ってくれる?」と頬を赤らめて言った。
その女はその日から頻繁に俺を呼ぶようになった。
この世界を知るためのキーマンを手に入れる事が出来たのかもしれない。
そう思っていたんだ。
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