第14話 【日本五千五ノ】 享年33歳 その壱
ここは遥か昔、日本という国だった。
世界でもトップクラスの経済大国と言われ、治安もよく、食事も世界から評価され、パスポートを持っているだけで信頼すら得られるような小さな島国で他国に憧れられる対象だったらしい。
ただ、俺はそれを聞いたことがあるだけで実際どんな国だったのかなんて知り得はしない。
今この国はずいぶん前から日本という国ではなくなった。
日本がどんなであったのかは口伝にしか知ることは叶わないほど情報は闇に葬られた。
今でも世界中では各地で戦争をしているが、次々と国の数は減っていっている。
俺は一体誰から生まれたのかすら分からないが【
俺がガキの頃、俺の世話をしていたのはロボットたちだった。
ロボットたちは姿形は俺らと大して差はないが、とても俊敏で壊れにくくちょっとやそっとでは反抗することは出来ない上に、
反抗しようものなら体に埋め込まれたチップから全身に痛みを与える物質が出るようになっている。
ガキの頃からそうやって痛みの恐怖で支配されて育成されてきた俺は、ロボットたちではなく、この国を支配した人間達によってある仕事をさせられている。
その国のやつらがどうやら俺らを繁殖させ、育成しているようだ。
ロボットもいるのになぜか・・・。
それはやつらが人間だからとしか言いようがない。
俺らの居場所は檻の中、他のやつらと対峙する時は仕事の時だけ。
俺は男として生み出され、男らしい仕草や言葉遣いをロボットたちにしつこく仕込まれてきた。
仕事は二種類ある。
頻繁にある仕事はこの国の支配者たちの中でも人間の女への性の奉仕だ。
言葉ひとつ間違えようものなら、女たちは俺に痛みを与える。
ロボットに仕込まれたセリフや態度、表情などですべての女が満足するわけがなく、この仕事で痛みを伴わない時の方が少ない。
女たちは夜な夜な色んな俺らに奉仕をさせ、満足がいったところで褒美として餌をくれる。
ただの物扱いだ・・・。
この国を支配した男たちはどうしているかって?
やつらには高性能の性欲処理のためのロボットが与えられているらしい。
生身の女はやつらを相手にしない。
もしもやつらが生身の女に手出ししようものなら、その時はもうひとつの俺らの仕事の出番となる。
ただこれはあくまでもこの元日本という国の中でだけのルールだ。
ある晩俺は一人の女に奉仕をするため檻から出され、その女の元に連れていかれた。
「あら、今日のディルドはそれなりに良い作りしているじゃないの」と女は言う。
「初めまして、お嬢様。お会いできて光栄です。僕なんかでよろしいでしょうか?」これはテンプレだ。
「ちゃんと躾けは出来ているのね。でも、一人称は俺にしなさい。私は今日は力強い男に抱かれたい気分なの」と設定が大抵くるものだ。
そこからは要望に応えるため今回は敬語はなしだ。
ベッドに腰かけている女の傍に行き、おもむろに押し倒して、自らYシャツのボタンを外し、ネクタイを雑にゆるめると、女の頬に指で触れる・・・ここからはどれだけ女の期待をいい方向に裏切っていけるかで餌が貰えるかが決まる。
頬から耳へ首へ鎖骨へと指をゆっくりとゆっくりと滑らせながら、俺は女の顔に自分の顔を近づける。
そして耳元で「お前・・・こんなことばっかりしてんの?」と一度蔑むようにセリフを吐く。
女が何か言いそうになった時には唇で唇を塞いでしまう。
それが成功すればあとは大抵の事はうまくいくのが俺の経験で分かっていることだ。
奉仕の途中には相手のその日呼んでほしい名前を息遣い荒めに呼んでやったり、蔑んだ後からのギャップで「お前のこんなえろい顔は俺だけにみせろよ」と独占欲に聞こえる言葉などを投げかけながら、指定の所作を行う。
「ん・・・ぁ」と女が何度でも何度でも壊れかけて行くことが大事で、かといって俺が果てないのも女のプライドに関わるのでだいたい小一時間は焦らしながらロボットたちに仕込まれた手練手管と言葉攻めで奉仕をしたあとに、
心の底から思っていないんだが「もう駄目だ我慢できない・・・入れるぞいいか?」と耳元で囁く。
合意の場合には俺のチップが埋め込まれている背中に抱き着いて指紋認証することになっている。
これを無視して入れようものなら、あとあと何か月も痛みの物質をチップから流され続けるらしいが俺は今のところ経験がない。
まだ駄目だという場合は更に色んな刺激を女に与えて、もう合意以外にこれ以上壊れられないと感じさせるまで同じようなことをセリフとスキルを変えて継続する。
長い時には数時間に及ぶこの時間、俺は表情もしっかりと演技していなければいけない。
今回もそこそこ長くかかりそうだ・・・そんな時には使う最終手段がある。
「俺・・・他の女なんかより厭らしくてゾクゾクさせてくれるお前の方が抱いていて気持ちがいい・・・ずっとこのまま俺の腕の中にいろよ・・・お前だけ愛してやる」と他の女と比較して圧倒的に上だということと、好きだ愛してるだという言葉は最期の一手になりやすい。
「ん…ゎらしも・・・もう欲しい・・・早く・・・」と合意の指紋認証は完了した。
そこからもまた大変だ。
5分やそこらで終わるわけにもいかないし、30分を遥かに超えて腰を振っていても萎えてくるのを防がなければいけない。
果てるタイミングは女がちゃんと支持してくる。
「もう・・・これ以上は・・・ダメ・・・一緒がいい・・あぁ!」と
そこで脳内に俺も支持を出して果てて見せ、そうそう簡単には女から離れない事。
その後心の底からどうでもいいなこんな女と思っていても、まだ餌をもらえるかどうかはここからが実は一番大事なポイントだ。
そうピロートーク。
とにかく余韻の残った女の身体の腕や太ももなどに指を滑らせながら、
「今のお前すごいエロくてかわいかった・・・最高だった」などとおだて上げ、高揚を継続させる。
本当に心から思ってないけど、早く餌くれ帰らせてくれと思っているけど、
一応言っておかなければいけない。
「お前の身体忘れたくないからもう一回してもいいか?」全然したくない。
でも、女ってのは不思議なもんで二度目三度目を欲する。
あったまればあったまるほど欲望に忠実になってくる。
という事で今日の女とはその後女が寝付くまでの間の数回と寝て起きてからの一回の奉仕ののち俺は餌を受け取り檻に帰された。
初めての女の場合はこれでいい。
問題は俺らよりも圧倒的に人数の多い女たちの名前は知らされないが、顔や体、髪形などを記憶しておかなければいけない事だ。
昔それは一回失敗したことがある。
テンプレの「初めまして」がそもそもNGワードになる。
覚えていてくれなかったのね・・・と言われながら強制送還と痛みを一晩食らうことになる。
今この元日本において、日本人の血を引く俺らは選ばれし遺伝子の作り出したディルドに過ぎない・・・一切の反抗も失敗も許されない女たちの絶対的味方で居なければいけない。
そして、餌を貰い、再度同じ女に呼ばれる機会があればあるほど、俺たちは優秀な遺伝子であると認識され女たちは俺たちの子供を産む。
きっとそうして俺も産み落とされたのだろう。
一体いつからこの国はこんなことになっているのだろうか・・・何も知る方法はないが、
唯一情報を知っているのはこの国を支配した人間達だけだ。
今俺が出来る事は夜な夜な女たちを喜ばせ、懐に入り情報を聞き出すくらいの距離感を作り上げることだけだ。
そして今夜もまた・・・俺は檻から出されてある部屋に通された。
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